浮世絵に見る源氏物語

 

 NHKの大河ドラマ「光る君へ」が始まり、紫式部と『源氏物語』が注目される中、千葉県野田市の茂木本家美術館で、企画展「源氏絵~浮世絵にみる『源氏物語』~」が開催された。

 源氏絵と聞くと、『源氏物語』の雅な絵巻を思い浮かべるが、この企画展で取り上げているのは、江戸時代の庶民に親しまれた源氏絵である。これは、柳亭種彦が執筆した合巻『偽紫田舎源氏』の場面や登場人物を描いた浮世絵である。

 『偽紫田舎源氏』は室町時代のお家騒動に、主人公・足利光氏の好色遍歴を絡めた『』の翻案小説だ。

 当時最も人気の高源氏物語かった絵師、歌川国貞(3代目豊国)が挿絵を描いたこともあり、文政12年(1829)に刊行されるとたちまちベストセラーになるが、天保の改革で咎めを受け、未完のまま発売禁止になった。しかしその後、改革が緩むと続編が刊行され、多くの浮世絵師が源氏絵を描いた。

 本企画展では、源氏絵の代表的作品である歌川国貞「今源氏錦絵合」のうち、「若菜五」「花宴八」「初音二十三」など48点が展示された。平安時代の『源氏物語』と比べながら、江戸時代の「源氏絵」を楽しむことができる。

 友人に車で送られ、茂木本家美術館に到着する。立派な美術館だ。予約時間が団体とかち合い、大分混雑していた。

 茂木本家美術館は、キッコーマン創業家である高梨・茂木・堀切一族8家の茂木本家第12代茂木七左衛門が収集した美術品を展示している。略称は MOMOA (MOGI-HONKE MUSEUM OF ART)。主な所蔵品には葛飾北斎「富嶽三十六景」や歌川広重、喜多川歌麿などの浮世絵500点や、横山大観、小倉遊亀、中島千波などの日本画。梅原龍三郎、和田英作、絹谷幸二などの洋画、高村光雲、平櫛田中の彫刻など、その数は3700点に及ぶ。

 茂木本家の蔵やシマサルスベリの木が見える「自然の窓」があるホールで受付を済ませ、創立者である12代茂木七左衞門のお気に入りの梅原龍三郎「鯛」、小倉遊亀「古九谷鉢葡萄」などの作品を集めた展示室へ。

 ギャラリー1では、富士山ばかりを描いた作品を展示している。天井の窓は富士山と筑波山を結んだ線と並行に切られており、「富士山軸」と呼んでいる。

 ギャラリー3は、浮世絵を展示するために特別にデザインされたスペースで、ここで「源氏絵」の企画展が行われていた。作品の保存のために遮光カーテンで区切られ、暗室のようになっている。

 タワー室に入って見上げると、月が見える。建築設計者である彦坂裕氏の、「ツキを呼ぶ」という想いが込められているという。

 白い円柱(コラム)が並ぶコラムコートでは、部屋の中心と茂木本家の稲荷神社の中心が一致して、眼前の景色を独り占めすることが出来る。

 カフェMOMOAを通り抜け、ゆったりと広がる芝生広場に出ると、シマサルスベリやサンシュユなどが植えられ、庭園を介してコラムコートと稲荷神社が繋がっている。ランドスケープデザイナー、上山良子氏の設計だそうだ。

 茂木本家住宅の柿渋で塗られた板塀や屋敷林が広がり、茂木本家の稲荷神社がある。江戸時代にはこの場所に茂木本家の醤油蔵があり、職人たちがお参りしていたという。入って右手の手水舎の屋根の下には「きつねの嫁入り」が彫られていて、江戸時代の雰囲気を今に伝えている。

 所蔵品の多さにも驚かされるが、茂木本家の佇まいを取り入れた設計には感動した。美術館の美しさに、本題の企画展を忘れてしまうほどだった。

 帰りに、キッコーマンのマンズワインを説明してくれた。マルローと書いてあったので、マルベックの話をすると、流石によく知っていた。葡萄籠を頭に乗せた少女のブロンズ像が印象的だった。

      

令和6年(2024)3月16日