昨日は世界エイズデーだったので、

チンパンジーの犠牲について触れなければなりません。

もちろん「動物実験」そのものに反対ですが、

今日は特にエイズ」や「チンパンジー」を中心に書きます。

 

 

まず最初に私がこの事実を知ったのは、

ヴィーガンになる直前の2022年でした。

チンパンジーの権威ジェーン・グドールさんの著書

希望の教室』(2022年5月発行)を読んでいて、

以下の箇所に衝撃を受けました。

 

「まず、医学研究にチンパンジーが使われている恐ろしい状況をなんとかすることにしたの」

「研究用のチンパンジーを助けてやれると本気で思っていたのですか?

医学研究機関に立ち迎えると?」

 これに、ジェーンは笑って答えた。「本気じゃなければ、やってみようなんて思わなかったでしょうね。研究所にいるチンパンジーのビデオを見たら、もう、ものすごいショックを受けて、腹が立って、とにかく行動しないとって気持ちだった。チンパンジーのために。

 一番辛かったのは、この目であの子たちの様子を確かめるために研究所に行かなくちゃならなかったとき。何かことに当たるならまず、その問題を自分がちゃんと知らなくてはね。だけど、わずか1.5メートル四方の檻にたった1頭で閉じこめられた、知性もあれば社会性もある存在の前に立つのがどれほどいたたまれなかったか。そのあともいくつかの研究所に足を運んだけれど、最初に行った研究所が一番辛かった。わたしの気持ちを察した母は、手紙をくれた。そこには、チャーチルの言葉をいくつか書き写したカードも同封されていてね。そうしたら不思議なことに、研究所に車で向かう途中、英国大使館の前を通ったら、チャーチルの銅像が立っていたの。あの有名な勝利のVサインをした銅像が。まるで過去からのメッセージみたいだった。多くの人を励ましてきた指導者が、今またそこで、私が何より必要としていた勇気をくれたの」

「研究所についたあとは、どうでしたか?」

「あのときの辛さといったらもう、想像をはるかに超えていた。自由を奪われた可哀想なあの子たちをなんとしても助けようって、さらに固く心に誓ったわ。それで、ケンブリッジの科学者を前にしたときと同じ方法を使うことにした。ゴンベのチンパンジーたちがどんなふうに暮らしているのかを話して、映像を見せたの。わたしの目から見て明らかにひどい仕打ちをこんなにしているのは、そもそもチンパンジーのことを知らないせいだと思ったから。そんな人たちの心に訴えかけたかった。少なくとも何人かの心には届いて、話し合った。彼らは研究所に来てスタッフに話をしてほしいって言った。いくつかの研究所に学生を派遣していいとも言ってくれた。チンパンジーの”環境改善”のために。だって、知的な存在が、何もない檻に1頭だけ入れられていて、何もすることなくただ淡々と日々が過ぎていくだけなのよ。変化といえば、体を蝕む実験への恐怖と苦痛を感じるときだけ。そんな状態を少しでもなんとかしてあげたかった。

 それは長くて大変な闘いだったけれど、多くの個人や団体にも助けてもらって、ついに、私の知るかぎり、チンパンジーに対する医学研究は終わった。私は倫理的な観点から闘ったけれど、アメリカの国立衛生研究所(NIH)が、

およそ400頭のチンパンジーに最終決断をくだしたのは、科学者のチームが

チンパンジーに対する医学研究はいずれも、

人間の健康にまったく益がない

って断じてくれたからでもあるわ」

 

(上)研究所にいた子ども。ひどいうつ状態だった。檻の狭さを見てほしい。

(下)研究所の檻に閉じこめられたチンパンジーのもとを訪れたジェーン。

 

調べると、

この本の件とは直接の関係はないのですが、

同じ2022年の記事にこんなものがありました。

(ここからはどんどん時を昔へさかのぼることにします。)

 

島に置き去り…実験用チンパンジー ボランティアが世話 リベリア

2022年2月5日

 

リベリア・マーシャルシティー近くの島で、

餌を受け取るチンパンンジー

(2021年11月18日撮影)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西アフリカ・リベリアの大西洋沿岸の島々には、

1970年代の動物実験で使われ、

置き去りにされたチンパンジーが、

今も数多く生息している。

動物実験が行われていたのは、

1974年に米ニューヨーク血液センター(New York Blood Center)

が設置した研究施設。

400匹を超えるチンパンジーが、

B型肝炎など感染症の実験に使われた。

 

そしてここだけ時は前後しますが、

ヴィーガンになった直後の2022年晩夏、

この「肝炎」とチンパンジーに関する日本の記事を発見しました。

 

チンパンジーの肝炎感染実験の影響~寿命が短くなり肝臓や腎臓に障害~

2022-08-10 京都大学

 

ヒトに肝炎をもたらす病原体ウィルスの特定やワクチン開発のため、過去にチンパンジーがモデル動物として使われていました。野生動物研究センター熊本サンクチュアリは、過去に医学研究に使われたチンパンジーが余生を安らかに暮らす場所です。平田聡 野生動物研究センター教授、クリスティン・ハーバーキャンプ 同研究員らのグループは、熊本サンクチュアリおよびその前身施設に飼育されていたチンパンジーたちの生存と死亡の記録を分析し、C型肝炎ウィルスの実験的感染を受けたチンパンジーの寿命を算出しました。

その結果、医学実験のためC型肝炎ウィルスが体に残ったチンパンジーは、そうでないチンパンジーに比べて早く亡くなることが分かりました。腎臓の病気が死因となった例が複数あり、また、肝機能も低下していることが確かめられました。1970年代から21世紀初頭にかけて、チンパンジーをモデル動物にした医学研究は世界的に多くおこなわれてきましたが、C型肝炎感染実験の影響を追跡し報告した研究はこれまでになく、本研究が世界初の報告となります。

本研究成果は、2022年8月10日に、国際学術誌「Biology Letters」にオンライン掲載されました。

 


次は2020年アメリカです。

2020年の予算案にて、

動物研究の制限を長年訴えてきたカリフォルニア州選出下院議員の

ルシール・ロイバル=アラード(民主党)が、

米食品医薬品局(FDA)と米退役軍人省に対して、

ヒト以外の霊長類を使用した研究の大幅削減の開始を求め、

NIHにヒト以外の霊長類を使用する研究の代替策を調査するよう求めています。

 

そして2019年日本では、

アニマル・ライツ・センターのHPにこのようなQ&Aがありました。

(※一部、英語を自動翻訳したようなぎごちなさがありますが、

 内容は的を射ています。)

動物実験がなくて、AIDSとどうやって戦えばいいのですか?

2019/04/02

 

過去20年以上、動物にAIDSを感染させようと何十億ドルも費やしてきました。そしてその努力は全く役に立ちませんでした。研究者はHIVでチンパンジーを感染させる事に成功しましたが、どれもAIDSまでは進行していません。適切な動物モデルの生産能力がないことがわかっているのに、動物実験がこの恐ろしい病気の治療や処置を導き出すだろうと仮定することは愚かです。AIDSコミュニティーのいくつかは、不安定な状態の命で、この結論に達しており、動物実験に対する政治的な抗議を行なっています。チンパンジーモデルを支持した科学者でさえ、今は科学的な長所の欠落を熱心に批評します

 

チンパンジーモデルは科学コミュニティーで多くの指示を得られない。

私は、特に有効なモデルであると私たちを確信させた

チンパンジーの働きから何かが生じているようには見えない。

発達するのに12~14年かかる『動物モデル』は、理想的ではないようだ。

実験動物科学にAIDS研究費用を投資することは無駄であり、AIDS患者の病は続きます。とにかく、動物はAIDS治療やワクチンの発達のためのただひとつの実験台ではないのです。世界中で3400万もの人がHIVに感染しています。この人々からの血球は、私たちが最も注目すべき研究資料として役立ちます。

 

AIDSに進行しないHIVに感染した人間は、病気を打ち消す適切な方法へのとてもよい見通しを提示します。

動物実験コミュニティーは、AZTや他の抗AIDS治療は、動物実験の結果として開発されたと主張します。しかし、これら薬の開発の歴史を注目すると、それが反対であることが証明されます。全てのこの人間のデータが、HIV治療の開発と、ワクチン作成の努力の成果を、信頼できるものとして報告します。

AIDSは人間の細胞レベルで殺傷し、そしてそれは研究が必要な場所です。

 

さらに2016年の日本。

これに関しては、

唯一響いた(がそれでも全てには賛同できない)最後の記述だけ載せます。

 

地図にない動物研究施設を訪れて

― 京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリ訪問記 ―

 

かつて、我が国では肝炎ウィルス等による感染症を克服するため、

野生のチンパンジーを大量に捕獲・輸入して医学感染実験を行い

B型肝炎ワクチンの開発やC型肝炎ウィルスの特定という大きな成果を生み出した。

その一方で、人間と近縁であるチンパンジーへの侵襲的医学感染実験という倫理面からの妥当性、実験終了後のチンパンジーの取扱いをどうするかといった負の問題に対して正面から向き合おうとせず、一部の研究者や企業による自主的な取組に大きく依存していた面は否定できない。

 

野生のチンパンジーの捕獲では、生きて捕らえた数の2~3倍、さらに健康な状態で先進国の実験施設に到着する個体数で考えると、それ以上の犠牲が出ていると言われている。

 

そして今度は2015年のアメリカです。

 

アメリカNIH、全ての実験用チンパンジーを引退させ保護施設へ

2015年11月20日

 

  

 

18日、

アメリカの国立衛生研究所(NIH)はいよいよ、

米国政府が資金提供する医学研究において

今後チンパンジーを用いないことを発表しました。

残っていた50人のチンパンジーは引退し、

3つのサンクチュアリに送られることになりました。

 

ネイチャーなどのニュースによると研究者は不満もあるようですが、

2007年には繁殖中止のモラトリアムが導入されていましたし、

2011年にはアメリカ医学研究所(IOM)の専門委員会が

ほとんどのチンパンジーの実験は不必要である

と結論付けた勧告を出していました。

それを受けてNIHでは

新規の実験への研究費交付もいったん停止されていました。

また、

NIHでワーキンググループを立ち上げて

検討した結果も研究費の停止でした。

当時いた360人のチンパンジーのうち、

今回の50人以外の引退は、

2013年に公表されています。

もう一つの要因としては、

今年6月、

アメリカの魚類野生生物局は

種の保存法の保護範囲を飼育下のチンパンジーにまで拡大し、

野生チンパンジーの保護につながるものでなければ

侵襲的な実験は許可されない

こととしました。

その後、

研究の申請は1件もなかったようです。

 

PEACE (Put an End to Animal Cruelty and Exploitation)より

 

2015年にはもう1件あって、

日本のJAVA(動物実験廃止を求める会)

こんなに素晴らしいことを書いていてくれました!

 

動物実験はまちがっている

動物と人間はこんなに違う

 

米メルク社のワクチンは、サルのHIV感染を防ぐことはできたが、ヒトでは効果がなかった。この2007年のメルク社のエイズワクチンの失敗の後、米国立アレルギー感染症研究所は、現在用いられているアカゲザルを用いたシステムでは潜在的なワクチンの予測はできず、「役に立っていない」事実を認めた。

1980年の時点で、マウスなどげっ歯類に対して発がん性を有する化学物質は約1,600種類あったが、そのうちヒトに対しても発がん性があったのはたった15種類であった。

Ray Greek and Niall Shanks著 「FAQS ABOUT THE USE OF ANIMALS IN SCIENCE A handbook for the scientifically perplexed」, 2009年より

 

2006年、モノクロナール抗体(TGN1412)の臨床試験では、6人の若いボランティアが重症となり瀕死状態に陥った。そのうち1人は後につま先の切断を余儀なくされた。この試験に先立って行なわれた動物実験では臨床試験の500倍もの量をサル投与していたが、これら重度の副作用を予測できなかった。

BUAV発行「What is wrong with animal experiments? A guide for students」より

 

理化学研究所などでつくる国際共同研究チームがチンパンジーの22番染色体とヒトの染色体を比較した結果、ゲノム(全遺伝子情報)の暗号文字(塩基配列)の違いは約5%だったが、それを基に作られる遺伝子は8割以上で違いが見つかった。研究チームは「両者は進化の隣人と呼ばれるが違いは想像以上に大きい。ヒトへの進化をもたらした遺伝子の解明は簡単ではない」と話している。

『毎日新聞ネットニュース』2004.5.2

 

「良い科学と悪い科学」 アンドレ・メナシュ博士

(約8分30秒 日本語字幕あり)
動物実験に反対しているフランスの科学者の団体Antidote Europeの理事兼CEO(最高経営責任者)であるアンドレ・メナシュ博士が、動物実験は「悪い科学」として、科学的な観点から、動物実験の問題点とそれに代わる手段をわかりやすく説明しているビデオです。
※画面下のツールバー(カーソルをあてると表示されます)にて『字幕(キャプション)』をオンにして日本語を選択してください。

 

なぜ動物実験を続けるの?

 

 

多くの問題があるのに、なぜ動物実験は続けられているのでしょうか。

動物実験は既存の動物モデルを使って簡単に結果を出し、研究を発表できます。そして、その研究発表は、研究者に地位や名誉、給料などの利益をもたらすだけでなく、国から受ける研究の補助金とも密接に結びついています。つまり、動物実験の存続(存廃)は、研究者にとって死活に関わる重大な問題なのです。
また、動物実験産業は、産学双方の分野で多くの人が関心を寄せる巨額ビジネスでもあることから、変わらずに続いていく仕組みになっているのです。
そのため、研究者たちは、さまざまなメディアを利用して自分たちの研究や動物実験を賞賛したり、国会議員に売り込んだりして動物実験を続けています。
何より、多くの研究者は「動物を使用した方法が従来のやり方であり、当然」と考え、社会の大部分の人が「動物実験が医学の進歩に必要だ」と信じている、つまり、動物実験を肯定する世論がまだまだ高いことが、動物実験を続けさせてしまっているのです。

(参考)Ray Greek and Niall Shanks, “FAQS ABOUT THE USE OF ANIMALS IN SCIENCE A handbook for the scientifically perplexed”, 2009年

 

 

そして2014年のアメリカでは、

前述のルシール・ロイバル=アラード(民主党)が、

ほかの数人の下院議員と協力して、

NIHで実施されていた赤ちゃんザルを母ザルから引き離す特定の実験を終わらせました。

 

↑母親から引き離されハリボテにしがみつく赤ちゃん…。

 

さらに2013年には、

NIHがチンパンジーを使った研究を「段階的」に廃止すると発表し、

また米国の魚類野生生物局が研究施設のチンパンジーを含む

米国内のすべてのチンパンジーを絶滅危惧種に分類したことから、

大型類人猿の研究は米国では実質的に廃止になりました。

 

実験用チンパンジーに「引退勧告」 利用中止の動き加速 米

2013.02.04 Mon 

 

 

医薬品開発などを目的とした実験用チンパンジーの利用を

中止する動きが全米で加速している。

米国立衛生研究所(NIH)の作業部会は1月にまとめた報告書で、

米政府の助成で飼育されている実験用チンパンジーの大半を「引退」させ、

保護区で余生を送らせるよう勧告した。

作業部会の共同議長によると、

技術の進展により、

かつてはチンパンジーでしか対応できなかった課題に、

チンパンジー以外の動物や、

動物を使わないシステムでも対応できるようになった。

報告書は60日のパブリックコメント期間を経て、

そのままの形で受け入れるかどうかをNIHのコリンズ所長が判断する。

勧告の対象となるのは、

現在NIHが保有しているチンパンジー360頭。

これとは別に、

テキサス州サンアントニオにある生物医学研究用の91頭についても

NIHが補助金を出しているが、

こちらについてはNIHが引退させることはできないという。

 

NIHが保有するチンパンジーは、

これまでに219頭が引退して保護施設などで暮らしている。

報告書は、

引退させるチンパンジーの飼育環境についても提言し、

直ちに計画に着手するよう促した。

ただしチンパンジーを使った研究の全面的な中止には踏み切らず、

約50頭は必要になった場合に備えて確保しておくべきだとした

チンパンジーは約99%のDNAがヒトと一致することから

実験や研究に使われてきたが、

米医学研究所は2011年12月の報告書で、

研究用のチンパンジーに関して予想されるニーズはほとんどない

と指摘していた。

ただしC型肝炎のワクチン開発と、

がん性腫瘍の治療法開発は例外とした。

NIHはこれを受けて作業部会を設置し、

提言を実行に移す方法について検討していた。

 

そして2011年オーストリアでは既にこんなことが起きていました。

 

製薬会社の実験台となるため、赤ん坊の頃にアフリカのジャングルからヨーロッパに連れ去られたチンパンジーたち。

 

↑※こちらは全く別の物語ですが、

あまりにもピッタリ来たので拝借しました。

 

中には研究所で生まれてきたものもいる。彼等は太陽の光を見ることなく、

30年間ずっと実験室の金属の檻に閉じ込められていた

 

多くのチンパンジーたちは死んでしまったが、生き残った38頭のチンパンジーが、30年ぶりに解放されることとなった。

 

柵と防弾ガラスで隔離されていた実験室から、日の当たる緑生い茂る世界へと放たれたのだ。それは2011年9月のことだった。

 

動物実験の為だけに研究所に閉じ込められていたチンパンジー

 

チンパンジーたちを監禁していた研究所は、

エイズ撲滅のワクチンを見つけるためにチンパンジーを買った。

チンパンジーと人間は遺伝子の99%が同じなので、研究のためには絶好の実験台だったのだ。

 

恐ろしいことに、彼らを6年間育てた母親のチンパンジーたちは、みんな殺されてしまった。

 

チンパンジーたちは、エイズウイルスを注射されるなどの残酷な処置を受けることになり、機械につながれ、化学物質を投与され、まさに彼らは絶望の淵の囚人そのものだった。

 

なんの楽しみも温かな愛情も希望もなく、多くは発狂寸前まで追い込まれたり、それ以上の悲劇にみまわれる場合もあった。

 

生き残ったチンパンジー、はじめて空の下で太陽の光を浴びる

 

しかし、ついにチンパンジーたちの苦しみは終わった。生き残った38頭のチンパンジーたちがオーストリアのザルツブルグ近くのガット・アイダービヒル動物保護区に解放されたのだ。

 

長年、柵と防弾ガラスで隔てられていたが、仲間のチンパンジーたちと接触することができた。

 

スシ、デイヴィッド、クライド、リンゴア、モーリッツとほかの生き延びた仲間たちは自由になり、これからは一緒に生活できるだろう。

 

これは自然保護活動家のマイケル・アウフハウザー(59)の惜しみない努力の成果だった。

 

ヨーロッパの4か国で運営されている、動物のための慈善団体の創設者であるアウフハウザーは、ウィーン郊外の今は使われていないサファリパークにある保護施設建設の監督をした。

 

「彼らがラボで負った傷がどんなものか、誰にもわかるまい」とアウフハウザーは言う。

 

30年ぶりに太陽のもとに足を踏み出すチンパンジーたち。

笑顔で手を振っているように見える。

 

勇気を出して外の世界を覗き込むチンパンジーのクライド(左)。

身を寄せ合いながら、新しい世界を覗き込む3匹のチンパンジー(右)

 

自由になって初めて日光浴する37歳のスシ。

スシは35年間、一度も外に出たことがなく、自然の存在を知らなかった。

 

程度の差はあれ、どのチンパンジーもみんなトラウマを負っている。2頭は解放前に死に、生き延びたチンパンジーが体験した監禁されていたときの生活はとても考えられないようなものだったろう。

 

エイズウイルスを注射されたチンパンジーもいた

もちろん、彼らは、HIVウィルスに感染しているが、

このオーストリアでも世界中どこでも、

エイズ(後天性免疫不全症候群)が進行したチンパンジーなどいない。 

 

だから、

この動物実験は無意味でなんの役にも立たないものだったのだ

 

檻に閉じ込められ実験台となっていたころのチンパンジー

 

数年前、アメリカの大手製薬会社バクターが、問題のオーストリアの研究所を買収して、すぐにこうした試験プログラムを続けるつもりはないことを発表した。

 

さらに、会社には、50~60歳まで生きられるはずのチンパンジーの人生をより良いものにしていく道徳的な義務があると決断した。

 

チンパンジーたちはやっと残りの人生のための尊厳と楽しみをもてることになる。

 

ようやく終わりが近づいてきました!

2003年の日本の、

NPO法人「地球生物会議ALIVE(All Life In Viable Environment)」による、

この素晴らしい文章を是非お読み下さい!

 

人の隣人、 チンパンジーを 実験に使うことの 倫理的問題

 

 チンパンジーは、人類に最も近い種であり、最近はチンパンジーを「ヒト属」に入れるべきだという科学者の意見も出ています。その結果、これまでヒトの身代わりとして肝炎やエイズの研究などに「動物として」使ってきたチンパンジーの実験は、ほとんど「人体実験」同様と考えられるようになり、もはや倫理的に許されないという動きが国際的に高まってきています。

 それに伴い各国の法律も改正・制定され、2001年にオランダでチンパンジーの実験が廃止され、サンクチュアリ(保護区)に移されることが決定したことにより、ヨーロッパではすべてのチンパンジーの実験がなくなりましたアメリカでも、2000年に実験用チンパンジーをリタイアさせ、国立のサンクチュアリに移すという法律が通過しています。

 

 一方、日本では、国内にいるチンパンジーの3分の1(百数十頭)が実験施設で飼育されているというのに、このようなことが公に議論されたことはほとんどありません。しかも、欧米の世論に逆行するかのように、これを国の「バイオリソース計画」に組み込み、国の予算で実験動物資源にしてしまおうという計画が進んでいます。

 今回、当会では、以下の要望書を文部科学省ほかに送りました。

 

2003年2月3日
文部科学大臣  様

日本国内のチンパンジーの保護に関する要望書

 私共は、絶滅のおそれのある大型類人猿、チンパンジーの保護と福祉の現状に深い危惧と憂慮の念を抱いております。

 このほど貴省は、バイオリソース・プログラムの生物資源(バイオリソース)のひとつとして、現在、日本国内で人間の飼育下にあるチンパンジーを国家予算で維持し、研究者の要望に応じて提供できる体制を整えつつあるとうかがっております。

 私共は、チンパンジーを国のバイオリソース・プログラムに組み込むことに同意することができません。それは、国がチンパンジーを監禁状態におき、侵襲的な実験に利用することを公に認知することになると危惧するからです。ここにその理由を記したいとおもいます。

1、倫理的見地からの問題

 チンパンジーはいま絶滅の危機にさらされていること、また、かけがえのないユニークな存在であることが、メディア等を通して一般に広く人々に知られています。

 チンパンジーは、ヒトと最も系統的に近縁な動物で、道具やシンボルを使用する能力をもっていることは有名です。自然環境では、旺盛な好奇心をもち、音声やドラミングや身振りで、仲間に情報を伝えあいます。それだけでなく、社会的場面において驚くべき知的能力を示します。共感や同情の感情を持ち、慰撫や和解をするだけでなく、連合や干渉、操作、分離のための介入など高度に政治的な行動も見られます。母子間などの親しい関係では、キスや握手など情愛深いしぐさを示し、食物を分配することもまれではありません。

 400品目にもおよぶバラエティに富んだ食事をし、社会の単位は、50ー100頭からなる集団です。単位集団は、30平方キロから500平方キロにおよぶ広い縄張りをもっています。地域間では文化の違いが見られ、社会的学習によって多方面の情報が次の世代に伝えられていく点も、ヒトと共通です。

 このように、チンパンジーが必要とする生活環境や刺激はヒトのそれとあまり違うとは考えられず、ヒトの利益に供するために彼らを監禁すること自体が、倫理に反することと考えられます。こういった理解は、野生チンパンジーの注意深い研究が1960年代に始まって以来、次第に一般的になり、先進各国ではチンパンジーを侵襲的な研究には使わない方向で、急速に意見の一致が見られつつあります。

2、諸外国での保護の動向

 イギリス、ニュージーランドではすでに実質上、大型類人猿の実験が法律で禁止されており、また、ドイツでは動物の権利が憲法に盛り込まれ、大型類人猿のみならず動物実験自体の存続が疑問視されています。EU内で現在、チンパンジーを飼育している実験施設はオランダの生物医学研究センターだけですが、2002年10月4日、オランダの教育文化科学相とセンターの所長は、チンパンジーの所有権をこのセンターからオランダ国内とスペインにあるサンクチュアリに譲渡するという書類に正式に署名しました。

 これにより、チンパンジーはこれらのサンクチュアリが完成し次第「引退」することになりました。また、保健福祉スポーツ相は、1997年に制定されたオランダの動物実験法の改正案を2002年8月に提出し、大型類人猿の生物医学実験への使用を禁止しようとしています。また、カナダでも大型類人猿の実験使用禁止に向けて法改正の準備が進められていると聞いています。

 アメリカでは1986年に政府が打ち出した計画により、AIDS研究利用目的でチンパンジーを繁殖しましたが、長い年月と莫大な税金を費やしたのち、チンパンジーがAIDS研究の動物モデルとしては不適格であることが判明しました。この結果、現在アメリカ国内にいる実験用チンパンジー千数百頭の多くは余剰とされ、ただ施設で飼育されているだけの状態です。チンパンジーは実験に使われる他の動物と比較して寿命が長く、しかも安楽死が認められていないため、これらのチンパンジーの飼養費は納税者の重い負担となってきました。このため、アメリカ政府は税金の負担を削減する目的で「余剰チンパンジー」を実験施設から民営のサンクチュアリへ移す「チンパンジー・サンクチュアリ法」を成立させ、実験施設で飼育されるチンパンジーの数を減らそうとしているところです。

 以上から、米国以外のすべての先進国で、チンパンジーの飼育下での侵襲的な研究は永久に追放されようとしています。そして、今、世界中で大型類人猿の実験使用禁止を求めている人々の中には多くの著名な動物学者や哲学者が含まれています。

3、多くの国民が支持しない研究

 このように国際的に大型類人猿の実験削減・廃止へと向かっているのが明らかな今、なぜ日本ではわざわざそれに逆行するような提案がなされているのでしょうか。

 また、経済が低迷し、国民が将来に不安を抱えて生活している昨今、このような長年にわたり巨額な税金を費やさなければならない可能性のあるプロジェクトに乗り出すことに納税者が納得するか疑問に思われます。感染症研究・医薬品評価研究などにおいては、データの信頼性はいうまでもなく、コスト的にも時間的にも動物実験に優る様々な代替法が開発されています。また、心理学・脳科学研究においては、ボランティアなどで参加する人間の被験者を保護する研究環境の整備、非侵襲的実験機器の開発も進んでおり、発声言語を介して研究者と意志の疎通をはかることのできる被験者の協力を得ての研究による新しい発見が相次いでおります。

 以上の諸理由から、現在日本で飼育されているチンパンジーをバイオリソースとして国で管理することはやめていただくようお願い申し上げます。野生において絶滅の危機にさらされているチンパンジーは日本だけでなく世界の財産です。この貴重な生物を、その価値に見合った待遇に処すべく、国内外の専門家、動物保護関係者と協力し、サンクチュアリなどの施設で飼養することを是非ご検討いただきたくお願い致します。

以 上

<添付文書>

    1    2001年(平成13)年4月23日付、大型類人猿チンパンジーの実験使用禁止及び飼育環境の改善を求める要望書(地球生物会議)

    2    2000年12月20日 絶滅の危機にある大型類人猿に関する要望書(西田利貞)

    3     付録 国際会議「類人猿・二一世紀への挑戦」(2000年5月13日、 シカゴ)で採択された決議

 

それでは最後に、

1989年日本における伏見貴夫さん(京都大・霊長研)による

『悲劇のチンパ ンジー』への書評の一部を掲載して、

この長過ぎた投稿を閉じたいと思います。

(※もちろんこの文面にも全面的に賛同できているわけではありません。)

 

エイズや肝炎の研究は, その名のもとで, 余剰の雄チンパンジーたちが処分され る可能性をはらんでいる。熱烈な動物愛護団体が存在するアメリカでは, マスコミがこれらの話題を取り上げれば世論に大きな反響を引き起こし, 研究の動向が変わることもある。マスコミの力は, 何頭かのチンパンジーを医学的研究に使われることから救った。しかし, その反面マスコミの目にふれなかったそのほかの チンパンジーに対する人々の関心の目をそらしたのかもしれない。

 

本書のねらいは,「言葉まで憶えたチンパンジーが医学実験に使われるなんてかわいそうだ」という感情をよびおこすことだけではない。確かに, 幼い頃から, 人間の子供と同じように育てられ,手話を学び, あげくのはてに医学的な実験に使われることになったチンパンジーが, 檻のなかで,「出る」という手話をする姿は人間の感情を刺激するものがある。しかし, 本書は, チンパンジー, ひいては実験動物をめぐる人間の身勝手さを描いているものでもあり, 少なくとも我々研究者は, そういったメッセージをうけとめなければならない。

 

本日の投稿も最後までお読み頂き、

ありがとうございました。