夏合宿の3日目か4日目だった。

私の部屋は、その民宿で1番広い、3部屋をぶち抜きにしたみたいな感じで、そこに、15、6人が押し込まれたような所だった。

前部長だった私に対して、まったく敬意を払ってくれない部屋割りだなって思って、ほんと、舐められてるわって、笑ってしまった。、

夜、10時を過ぎて、全員布団を敷いて、寝る準備をしていた。

そこに、架純がやってきた。

そして、「○○ちゃん、もう寝るの?」って、声をかけられた。

私は、ちょっと、いたずらしてみようって、気持ちになって、

「架純、ちょっと、こっち、来て!」って、部屋に呼び込んだ。

そして、私の布団に座らせた。

それから、布団の中に引きずり込んだ。

布団の中で、背中から抱きしめ、動けないようにした。

そして、「もう、寝る時間だから、電気早く消して」って、声を上げた。

すると、照明のスイッチに1番近い奴が、急いで、電気を消した。

部屋は、真っ暗になった。

そこで、私は、「ああ、架純、お前、着やせするタイプなんだ。

オッパイ結構大きいじゃん。乳首、硬くなってきたよ。

下も触っていい?もう、こんなになってるじゃん。

今度は、俺のを触ってくれよ。ああ、ちょっと、待って。激しすぎるって。やばい、やばい、出ちゃうって、うー」

って、本当は、何もしてないのに、エッチしてるふりの、実況中継をしてやった。

周りは、静まり返っていた。

そこで、「ハイ、お終い。電気つけて!」って言って、電気をつけさせた。

そして、掛布団をとって、

「ほら、何も、してないから。ほんとに、してると思った?そんなこと、できるわけないじゃん!」って言って、笑ったら、みんな、大笑いし出した。

「ほんとに、しちゃってるのかと思って、びっくりした」とか、口々に、私の迫真の演技に、感動してくれたみたいだった。

すると、架純は、布団の上で、私を振り返り、笑いながら、「バーカ!」って、言った。

その時の顔が、なぜか、4月、5月の頃、いつも一緒にいた頃の、少女の顔じゃない、女の顔のように見えて、ギクってした。

それから、私は、ふざけて、

「架純、ご苦労様でした。みんな、喜んでくれてよかったよ。でも、今度、この部屋に来たら、本当にエッチしちゃうからな!」って、言ったら、

「もう、来ないよ。馬鹿じゃないの」って言って、でも、笑いながら、部屋を出ていった。

それが、あの時の夏合宿中、記憶に残る、唯一の思い出になった。

 

合宿を終えて、アパートに戻って数日後、私は、どうしても、酒が飲みたくて堪らなくなった。

それで、夜8時か9時頃、8階建てのマンションに住む、由美のところに電話した。

暇だから、由美の部屋に行くから、一緒に、酒を飲まないかって、誘った。

由美は、実家から、日本酒送ってきてもらったから、って言ったので、私は、じゃあ、ビールとおつまみ買って、今から、行くから、って言った。

そして、由美の部屋で二人で飲み始めた。

由美は、岐阜の造り酒屋の娘で、信じられないくらい酒が強かった。

その日も、いつものように、グイグイ飲んでいた。

二人だけなので、いつもは、話さないような、由美は、二人か三人姉妹の長女で、大学を卒業したら、実家に戻り、家の仕事を手伝う。

そして、そのうち、婿をもらって、一緒に跡を継ぐことに決まってるって、言っていた。

それで、私は、もちろん、ふざけて、

「俺が、お前んところの婿になりたい、って言ったら、お前の親とか、許してくれるの?」って、聞いてみた。

由美は、「○○ちゃんなら、大丈夫だよ!」って、言ってくれたが、私は、

「ほんとか、お前の親父とか、俺を一目見て、こいつだけはだめだ。他の奴なら、誰でもいいから、由美、それだけは、考え直せ!とか、言われそうな気がするけど」って言ったら、由美は、笑っていた。

「前は、美佐子と架純が一緒だったけど、彼氏ができちゃったから、二人だけになっちゃったな」って言って、慰めあっていたけど、

二人だけで、飲むのは初めてだったので、途中、何度か、ちょっとまずいな、って思う場面もあって、12時くらいには、自分の部屋に戻ることにした。

帰る時、「二人だけで、っていうのは、ちょっと、まずいかもな」って言ったら、由美は、

「酒はあるから、また、いつでも、来ていいよ!」って、言ってくれた。

私は、「じゃあな」って言って、由美の部屋を出ていった。

 

それから、さらに、1か月後。

出店で、6年生の滝さんに、ちょっと、いいか、って言われて、少し離れたところで、話しかけられた。

滝さんは、「俺さ、架純ちゃん、可愛いじゃん。好きになっちゃったんだよね。それで、相談なんだけど、俺、架純ちゃんと、付き合ってもいい?」って、いきなり聞かれた。

私は、またかと思いながら、「架純って、俺の彼女じゃなくて、飯坂の彼女だよ。俺は、全然、関係ないじゃん」って、答えた。

すると、滝さんは、真面目な顔で、「全然、関係ないって、わけはないじゃん。お前ら、スゲー、仲いいじゃん。だから、架純ちゃんと俺が付き合うことを、お前は、容認してくれるかって、聞きたいわけよ」って、わかるような、わからないようなことを言われた。

それで、私は、「俺は、全然、いーよ。ただ、飯坂は、大丈夫なの?」って、逆に、聞き返してやった。

滝さんは、「あいつは、いいんだ」って、きっぱりと言った。

そして、私に、「ありがとうな、そうさせてもらうよ」って、笑顔で、言ってくれた。

私は、この3人の女の子たちを、勝手に、妹のような感じって思って、接していたが、本当の妹でもないのに、ここまで気を回してもらわなくてもいいのにって、むしろ、不思議な気分だった。

 

さらに、数日後。

美佐子が、ミッキーと別れた、って話を聞いた。

私は、美佐子を慰めるつもりで、「じゃあ、これから、また、前みたいに、遊べるじゃん。茶店でも行く?」って、誘ってやった。

それから、二人は、ちょくちょく、昼ごはんを食べたり、喫茶店にいくようになった。

そして、11月に入って、美佐子が、「豊島園のタダ券があるから、一緒に行かない!」って、私を誘ってくれた。

私は、子供の頃から、豊島園が大好きだった。

私にとって、豊島園は、遊園地の中の、キングオブキングだった。

当日、私と美佐子は、子供のようにはしゃいだ。

子供の時みたいに、次の乗り物に移動する間も、ずっと、手を繋いでいた。

サイクロンやフライングパイレーツなどでは、肩を抱いてやったし、ミステリーゾーンでは、暗闇に乗じて、キスしたり、タッチした。

それは、若い男女のスキンシップで、そのくらいは、簡単なことだって、その頃の私は、思っていた。

昼は、美佐子が、お弁当を作ってきてくれていた。

すごく、上手だったので、「これ、お母さんが作ってくれたんだろ?」、って言ったら、

美佐子は、「私だって、手伝ったんだよ」って、笑いながら言った。

ただ、その日の夕方、豊島園を出てからは、美佐子は、新宿で降りて、小田急線で家へ帰った。

私は、渋谷で降りて、自分の部屋へ戻った。

美佐子を、私の部屋に誘って、そこで、奈美子と鉢合わせでもしたら、それはまた、厄介なことになるような、感じがしたからだった。

 

それ以降、私と美佐子の関係が、変化することはなかった。

そして、翌年の3月の末、私のアパートを引き上げて、千葉の八千代台の会社の寮へ、引っ越すことになった。

私は、引っ越しの前日、美佐子に、荷造りの手伝いをしてくれないか、って頼んだ。

美佐子は、笑顔で、引き受けてくれた。

それを知った、同期の松田が、松田も手伝うと言って、譲らなかった。

頼んでもないのに、迷惑な奴だなって、思ったが、ずっと、ついてきたので、そのままにした。

荷造りが終わっても、松田は、帰らなかった。

それで、その夜、マットだけになったベッドに、私と美佐子が寝て、松田は、押し入れで寝た、みたいだった。

さすがに、松田が気になって、最後まで、することはなかった。

でも、ずっと、イチャイチャはしてた。

松田は、朝早く、ようやく、家に帰って行った。

 

私と美佐子は、引っ越し業者が、荷物を運び出した後、電車を乗り継いで、八千代台の寮を目指した、

そのあいだも、手を繋いだり、腕を組んだり、ずっと、イチャイチャしていた。

寮に着いて、自分の部屋を見たら、荷物がすでに運び込まれていた。

荷物の開封を手伝ってもらったが、すぐに済んだ。

それで、たぶん、二人で、駅前まで出て、何かを食べたと思う。

すでに、夕方になっていたので、美佐子を、八千代台の駅の改札まで、送っていった。

美佐子が手を振って、駅のホームへ向かって階段を下りていった時、私の耳に、イルカの「なごり雪」が、聞こえてきたように感じた。

「時が行けば、幼い君も、大人になると、気づかないまま」って。

 

寮に戻った私は、寮のおばさんに、「あれ、彼女は、もう帰ったの?」って、声をかけられた。

私は、「彼女じゃ、ないですよ。妹みたいな、ただの、後輩ですよ」って、答えていた。

おばさんは、不思議そうに、首を傾けていた。

ただ、それから、数年たった時、あの時、なぜ、「はい!」って、言わなかったのか、って、後悔した。

 

大学卒業と同時に、私は、3人の妹を失った気分だった。

1年後、架純は、短大を卒業して、すぐに、滝さんと結婚した。

私は、滝さんの2年後輩なのだが、私だけ、他の先輩たちと混ざって、披露宴に出席していた。