ウンブラ/タイナロン―無限の可能性を秘めた二つの物語/新評論
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「ウンベラ/タイナロン

-無限の可能性を秘めた二つの物語」より

レーナ・クルーン/作

末延弘子/訳 新評論


この前、紹介したフィンランドの作家、レーナ・クルーンの物語です。

白地のページにこんな言葉から始まります。


「あなたは場所にいない、場所があなたのなかにいるのだ。アンゲルス・シレジウス」


どういう意味でしょうか。答えはひとつではないでしょう。

私の場所だと思っていたところは私の場所ではなくて、見知らぬ場所や他人と過ごさざるを得なかった場所が、何年も経った後、まぎれもなく自分の内にあって、未来の自分の心をつくりだした、かけがえのない場所だったと気づくかもしれないと思ったりしました。


この本は昆虫の世界に紛れこんでしまった人間の物語。

語り手はある植物園にいる「昆虫人」、つまり、「タイナロン人」と出会い、話は進みます。

それは第一の手紙から第二十八の手紙まで続きます。

顔の三分の一を占める眼は人間とは違う世界を見ているのではないか?

花は昆虫を奴隷とみなしている、とはどういうことか?

女王マルハナバチは、変人扱いされて疎遠されているような者たちを愛情こめて世話する、なぜか?

さまざまな疑問や思いを誰かに宛てた手紙で書き続ける語り手。

起承転結のはっきりとしたエンターテインメントを望む人にはどう読んでいいのやらわからないかもしれませんが、たしかにタイナロン人たちはとてつもなくおもしろく、興味深く、この昆虫の町では穏やかに時が過ぎていくのです。

人間から見れば、とてつもなくヘンな場所だとしても。