木々は八月に何をするのか―大人になっていない人たちへの七つの物語/新評論
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『木々は八月に何をするのか

 ‐大人になっていない人たちへの七つの物語』

レーン・クルーン/作

末延弘子/訳 新評論刊


レーナ・クルーンはフィンランドの女性作家。今、この人に夢中です。

彼女の住んでいる宇宙ではきっと、こんな不思議な出来事が本当に起きているのではないだろうか。人間の頭の中で創ったとは思えないほど、リアルな神秘性に彩られているのです。

表題作の『木々は八月になにをするのか』も実際にどこかに存在していそうな、遠い北欧の小さな町で起きた薬剤師の物語。


薬剤師はガラスでできた庭園で、暑い国でしか育たない花や木を大切に大切に育てていました。ある冬の日、一人の少年がちょっとしたいたずら心で植物園のガラスを割ってしまいます。

どうなったと思います? 北の国です。冷たい風がビューッと吹きこみ、雪が降ってきて、植物たちは一瞬ですべて枯れてしまいました。薬剤師は犯人を探そうとしましたが、有力者の息子だったその少年は皆から守られ、ただ黙々と植物園を作り直すほかはありませんでした。

それから何年も経ち、青年になったアーペリは恋人に花を贈りたいと思い、植物園を訪れます。

薬剤師は静かに微笑んで青年を迎え入れます。心の奥底には「いつかきっと復讐を」という思いを秘めていました。

夢か幻か、アーペリが受けた途方もない仕返しとは・・・。

仕返しなのに、なぜかうらやましく感じてしまうほどの神秘の体験。

その後、私は植物園を訪れるたびにこの物語を思い出し、薬剤師の仕返しを受けてみたいと思ってしまうのです。


夏の終わりの一冊に。