杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-パセリともみの木

友だちがほしいあなたに

『パセリともみの木』

ルドワィッヒ・ベーメルマンス/作

ふしみみさを/訳 

あすなろ書房




深い、深い、森の中。
きり立ったがけを見下ろすように、モミの木は立っていました。
しっかりと根をはって、しがみついていないと倒れてしまうような場所です。
だから、ほかの森の木々はまっすぐ成長していくのに、このモミの木はねじ曲がり、体をよじらせ、崖のふちをはうように大きくなっていったのです。
ところが、いいこともあるのです。
まっすぐの木たちは、人間にどんどん切り倒されていきますが、曲がりくねったモミの木をほしがる人はいませんでした。
そうして、何代にもわたって、それが繰り返されていくのをモミの木はがけのふちで見守りました。

モミの木はますます大きくなり、青く茂る枝は緑のテントのように地面をすっぽりおおうほどでした。


やがてそこにシカがすみつきました。
シカはモミの木のそばに生える、柔らかなパセリが大好きでした。
シカは子供たちに、パセリを食べなさいといいました。
心やさしいシカは、ほかのどうぶつにもパセリを食べることを教えました。
まるで、人間の母親が子供たちに「体にいいからホウレンソウを食べなさい」と言っているみたいに。

パセリを食べていたシカは年をとっても元気で、「パセリ」とみんなから呼ばれるようになりました。

年老いたシカ、パセリと、もっともっと年とったモミの木は仲良く暮らしました。

モミの木とシカとが寄り添っていると、どっちが木でどっちがシカか、区別がつかないほどでした。

風雨にさらされたモミの枝と、年老いて灰色になったシカの角とが、とてもよく似ていたからです。

そんなある日、猟師が森にやってきます。そして、大きな事件が…!




どっちが私で、どっちがあなたかわからない。
それくらい心が通いあう友だちがいますか?




ページのはしっこに、野の花の絵がひとつずつ書かれています。
なんの花かな? と考えながら、物語を読んでいくと、
最後のページにほら、
「この ほんに でてくる はなの なまえです。」
ナズナ、ワスレナグサ、マツユキソウ、スミメ、キツネノテブクロ、のいちご、オニアザミ…ぜんぶで23もお花が描いてあったんですね。


どんながけっぷちでも、しっかりと根をはっていたら、人は生きていける…。

そんなあなたに、寄り添う友だちも現れる。

年老いたモミの木が教えてくれることが、この絵本にはたくさんあります。