杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-アンデルセン「もみの木」





















あなたは“今”を生きてますか?

『もみの木』

アンデルセン/作

NE・バーカート/絵 中村妙子/訳 

新教出版社

 

モミの木、すぐに心に思い浮かびますか?

円すい形をした針葉樹。つーんとした香りがします。

その香りゆえ、昔、ヨーロッパでは、モミを“悪魔が避けて通る木”と呼びました。

冬至には、森に入って、一本のモミの木=家族の木を見つけ、

家の中央に立てて飾りつけをし、家族みんなが寒い冬を、健康で幸せに過ごせるようにと願いをこめました。

それが、クリスマスツリーの始まり……。


アンデルセンが描いたモミの木は、名もない森のなかで生まれた小さな木。

いつか広い世界に出たいと夢見ています。




「ああ、ぼくもほかの木のように大きかったらなあ!」
「そうしたら、枝をいっぱいにはって、ひろい下界をうえから見おろすのになあ。
 ぼくがもっと大きかったら、小鳥がやってきて枝のあいだに巣をつくるだろう。
 風がふいたら、兄さんたちがするように、そっくりかえって首をふってやるのに。」



モミの木はお日さまの光も、小鳥たちの歌も、木のまわりを飛びはねるウサギやリスも、頭のうえを流れていく朝やけ雲も夕やけ雲も、まったくうれしくなかったのです。

見かねて、日の光が言いました。

「おまえは毎日、すくすくのびているじゃないか。おまえのなかには、わかわかしい、いのちそのものがこもっているんだよ。」

風や露もモミの木をはげましました。

それでも、モミの木にはみんなのやさしさがわかりませんでした。



そんなモミの木も森を出る日がやってきました。

切り倒されて、ついにクリスマスツリーとなったのです。

あたたかな部屋のなか、金色のりんごやくるみ、人形たち、お菓子をつめた袋などで飾り立てられ、モミの木のてっぺんには、金色の星がきらめいていました。

モミの木は幸せでした。

そして……。

モミの木は、モミの木自身が思うような幸せがつかめたでしょうか?

その日が人生最高の日であったと、やがてモミの木は気づくのです。

アンデルセンが贈る、今を生きることのすばらしさを、モミの人生は語ってくれます。




今、この一瞬を生きることを。

今、この一瞬を喜びとすることを。

あなたのなかにすでにもう、

かがやく“いのち”そのものがこもっているのだから。