杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-山のごちそう


時間の速さについていけなくなったら
『山のごちそう どんぐりの木』
  ゆのきようこ/文
  川上和生/絵 

  理論社




葉っぱを落とした、大きな一本のどんぐりの木。
冬、雪をかぶっているときは、じっと身を守っています。
小さな芽が寒さでこごえてしまわないように。
春になると、葉が出て、花が咲きます。
初夏、葉は白い毛でおおわれているため、木全体が光って見えるんですって。
山をよーく見れば、遠くからでも、それがどんぐりの木―コナラだということがわかるのです。

こんなふうに、どんぐりの木の移り変わりがゆっくりと描かれていき、やがて、実がなる季節を迎えます。


最初は、みどり色のどんぐりがぽとんと落ちて

それから、秋が深くなると、茶色のどんぐり。

山のみんなはこのときを待っていたのです。

キジバト、カケス、ネズミ、クマ。そして、人間の子供も森にやってきます。

どんぐりを拾いにくるのです。

「どんぐり」とひと言でいっても、いろんな木から、いろんな形のどんぐりが落ちてくるんですよね。

コナラはラグビーボールみたいな形。

クヌギはふさふさの毛をつけていて、アカガシは帽子をかぶっています。

それから、どんぐりの食べ方もかいてあります。

どんぐりでつくった燃料や、野菜の肥料のこともかいてあります。

どんぐりのことなら、なんでもかいてあるのがこの絵本。

でも、にぎやかな本じゃないんです。


ていねいに、ていねいに、描かれたどんぐりのすがた。

あたたかい絵のなかに、短い文章が少しずつ。

紅葉にそまった山の絵のなかに、「ごちそうさま」ということばがあったり。

のんびりとどんぐり拾いに出かけたり、

落ち葉のじゅうたんの上をサクサクサクッて、歩いたり、

どんぐりを植えて育ててみたり。


自然のなかで、私たちは生きている。

どんぐりを一つ拾えば、幸せな時間をつくることができるのです。

ハデではないし、とくべつな感動はなくても、ほっと楽しい気持ちになれるって、

人生にはとても大切です。

この絵本を読んでいると、わかります。