長崎に生まれたあなたに読んでほしい童話
『ナガサキの花』
畑島喜久生/作
辻みやこ/絵 らくだ出版
夾竹桃(きょうちくとう)、曼珠沙華(まんじゅしゃげ)、白い槿(むくげ)…。
ひとつの物語が、ひとつの花をとおして、描かれる原爆童話集です。
原爆についての物語といえば、どんなに悲惨で残酷だったかを語ったストーリーが多く、現代の読み手にとって、「過去のこと」で終わりがちではないでしょうか。
読むのもつらくなる物語が多いですが、この本は一線を画しています。
何が起きたか?だけではなく、原爆の後に何が起こり、何を感じ、人々がどう生きてきたか。
そして、たったひとりの被爆者を見守り続ける家族の心を描いているからです。
被爆体験を背負って生きていかなければならなかった子どもを、家族が懸命に守ろうとする、友達が手をさしのべる、人と人との心がつながるとき、どんなに悲惨な人生にも光は灯る(ともる)ことを、この本は教えてくれます。
被爆者をめぐる人と人との絆は、現代社会の残酷にも通じるからでしょうか。
戦争を知らない、まして原爆は写真でしか見たことがない私たちにとっても、その苦しみや悲しみがリアルな感覚で伝わってきます。
人にひどいことを言われれば心は傷つきます。
傷つきたくないから、口を閉ざします。
どんなに逃げても、過去が追いかけてきます。
けれど、家族は子どもを大切に大切にします。
多くの人が去っても、たった一人の友がいれば、人は救われます。
誰が自分を傷つけても、絶対の味方は必ずそばにいることも、信じられるのです。
作者はあとがきで、こう書いています。
「どれだけくるしみ、いや、くるしみにもまけないで、いっしょうけんめい生きぬいてきたかを、おおぜいの人たちにも、知ってもらいたい」
原爆の語り部がどんなに原爆で受けた悲惨を語っても、戦争はなくならず、核廃絶は遠い。
原爆が正しかった歴史だという人もいまだに多い。
悲惨な過去を語るだけでは、人々の心に届かない時代になってしまいました。
そんな今、読んでほしい一冊です。
悲しくてもつらくても、生き続ける意味を、作者は花をとおして語り続けます。
あなたの誠実な魂に向けて、ただ淡々と、優しい言葉のつらなりで。