『じゃがいも かあさん』
アニタ・ロベール/作
今江祥智/訳 偕成社
むかし、ふたつの国が あった。
ひとつは 東の国。もう ひとつは 西の国。
ある日のこと、ふたつの国は いくさを おっぱじめた。
東西ドイツを思わせる、絵本の始まりです。
東の国の兵隊は、赤い軍服。
西の国の兵隊は、青い軍服。
今まで普通に、畑仕事をしたり、牛やにわとりの世話をしながら暮らしていた人々は、戦争の準備に大忙し。
剣をみがいたり、大砲のたまをつくったり、軍服のボタンつけをしたり。
そんな騒ぎなど知らんぷりの家族がありました。
東の国と西の国とのあいだの谷間に暮らす家族です。
仲良しの兄弟が、じゃがいもづくりの名人のかあさんと一緒に住んでいました。
かあさんは賢い人で、家のまわりにぐるりと高い塀(へい)を作り、息子たちの目から戦争を遠ざけていました。
しかし、息子たちが大きくなり、立派な男に育ったとき。
兄弟は塀の向こうに何があるのか見たくなりました。
そして、ふたりは塀から飛び出してしまったのです。
兄のほうは、東の国へ。
弟のほうは、西の国へ。
かあさんをひとりぼっちで残して…。
やがて、兄弟はそれぞれの国の司令官となり、戦いは激烈さを増していきました。
兄弟が命を奪い合う愚かさ、普通の暮らしをしていた若者が武器をとる残酷さ、
家族を大切にする人々が人殺しを平気でする無神経さ。
赤と青と黒だけで描かれた素朴な絵が、平和とは何か?を読む人に問いかけてきます。
朝、「おはよう」と声をかける相手がいること。
一緒に野菜や動物を育てる家族がいること。
ほくほくのじゃがいも料理を作ってくれる母親がいること。
心配してくれる人がいること。
愛してくれる人がいること。
愛する誰かがいるということ。
じゃがいもひと欠け食べることさえ、許されなくなる、日常の幸せを壊してしまう戦争の愚かさを絵本は伝えます。