『少年の木
希望のものがたり』
マイケル・フォアマン/作・絵
柳田邦男/訳 岩崎書店
「日本の子どもたちへ
みなさんは、戦争を知っていますか?」
そう呼びかける、作者マイケル・フォアマンさんのメッセージから、この本は始まります。
マイケルさんが幼かった頃は第二次世界大戦のさなか。
彼の家は、イギリスの東海岸沿いにあり、「海岸には、鉄条網(てつじょうもう)がはりめぐらされ、砂浜のいたるところに地雷(じらい)が埋められていたので、一度も海辺で遊ぶことができませんでした」と書いています。
幼いマイケルさんの目に映った、がれきだらけの戦争の傷跡。すべての家が壊されて、鉄条網で封鎖(ふうさ)された場所が絵本の舞台です。
がれきの山で、一人の少年が小さな緑色の葉を見つけます。
少年は、あきかんを拾って、その中にたまっていた雨水を緑の葉にかけてあげます。
「しっかり のんでね」と、そっと声をかけながら。
少年が見つけた葉は、ブドウの木でした。緑の葉は日に日に大きくなって、つるがのびて、葉をしげらせるようになりました。
そこを少年は“秘密の庭”と呼んで、毎日水をあげました。
やがて、友だちがやってきて、木陰で遊ぶようになり、緑の遊園地になりました。
ところがある日、兵隊たちがブドウの木を根こそぎひっこぬいて、鉄条網の向こうへ投げ捨ててしまったのです。
少年は、悲しくて、悲しくて、悲しくて…。
ブドウの木と少年は再び会えるのでしょうか。
戦争の残酷さは、くすんだ灰色で描かれ、
緑の葉、ブドウの木に集まる小鳥や草花や子どもたちは、あざやかな緑色や黄色やオレンジ色で描かれています。
「死」と「生」との本質を色彩によって、みごとに表していることに、作者の平和への意思を感じます。
戦争を知らない世代も、命を奪う悲惨と、命が芽生える希望、命のあたたかさを、少年の心のなかに見つけることでしょう。
★絵本に登場する木
ブドウ/ブドウ科・落葉低木 シンボル:幸せな家庭