
『鉢の木』
たかしよいち・文
石倉欣二・絵
ポプラ社
大雪の降るある夜、ひとりの修行僧が白い道をゆきます。
雪は降りやまず、修行僧は近くの家のあるじに一夜の宿を頼みます。
あるじは、「あなたをおとめしても 暖をとる薪もございません」と、丹精こめて育てた盆栽を薪がわりに燃やそうと言いました。
修行僧は「めっそうもない」と必死にとめますが、あるじは雪をかぶっている梅、桜、松の三つの鉢を次々といろりにくべていきました。
「あれほどまでに 枝のかたちをなおしたり、むだな葉をのぞいたりして、風情のあるようにと うえた松も、ばっさりきられて いろりの薪となっていくのは、なんともしのびない」
あるじはたえがたい思いでいながらも、修行僧にひと夜の暖をあたえるのです。
翌朝、修行僧は旅立っていきました。
時が過ぎ、春がきて、二人は思いがけないところで再会します。
修行僧の本当の姿は・・・。あるじの正体は・・・。
ほんのつかの間の出会いでも、心を尽くして人に対することのできる人間には、
天が大きなご褒美をくれるように、人生は導かれていきます。
そして、それを直接与えてくれるのは、目に見えない神ではなく、人間なのです。