『あるきだした小さな木』
テルマ・ボルクマン作 シルビー=セルグ画
花輪莞爾訳 偕成社
読み終わって、嬉しくなって、奥付を見たら、私が3才のときに出版された童話でした。こんなに素敵な木の童話を私は知りませんでした。
作者のテルマ・ボルクマンは、ふたごの息子たちから
「ママの考えた、誰にもしたことのない話をして」とせがまれて、勤め先から帰る途中、このお話を作ったのだそうです。
“誰もしたことのない話”は、小さな木が、土から根っこを抜き出して、歩き出してしまうお話でした。パパの木とママの木から離れて、住みなれた森から離れて、誰も知らない場所に旅立ったのです。
何を求めて? さあ、何でしょう?
大地にしっかりと根づいてこそ、枝々を伸ばし、葉っぱを生き生きとしげらせることができ、太陽に向かって背を高くしていくことのできる木が、てくてく歩き始めたら、どうなるんでしょうか?
旅の途中、小さな木はいろんな人に出会いました。いろんな場所に立ってみました。村や道ばたや町のど真ん中や、木一本ない野原・・・。でも、ひとつのところには長くいなくて、また、歩き始めます。
「ぼくは、もっと たくさん、たくさん 見たいものがあるんだ」と、小さな木は言います。
小さな木は、素敵なものを見られたでしょうか?
小さな木は、友だちを見つけられたでしょうか?
小さな木は、大きな木になれたでしょうか?
美しい色彩の絵の中に入りこんで、あなたは、小さな木を応援している自分に気づくはずです。
見たいものがあるならば、
歩いていこう、どこまでも。
進んでいこう、どこまでも。
誰ひとりいない道でも、前に進めば、
きっと、誰かに会える。