『森の賢者ヒダエモン』
ミヒャエル・エンデ作、クリストフ・ヘッセル絵
矢川澄子訳 河出書房新社
『はてしない物語』『モモ』の作者ミヒャエル・エンデが描く、インドの密林のおはなし。
森の賢者ヒダエモンは、大きな大きなゾウです。
知恵があり、もの静かで、謙虚で、思索をしながら時を過ごしています。
夜空が足元の水に映るのを見かけたら、<月!>を思う。
「夜空のふしぎにくらべたら、わが身はなんとちっぽけで、とるにたらぬものだわい」
小さな花が咲いているのを見つけたら、<花!>を思う。
「花なんて、ほんのちっぽけで、めだたないものだけれど、見かけの大きさなんて、何の意味もありゃしない」
そんなことをしみじみ考えているときは、心から幸せで、敬虔な気分になりました。ひたすら月、ひたすら花。何年も何年も一つのことをずっと考えていることもありました。
ヒダエモンは哲学者なのです。
そんなある日、ヒダエモンに戦いを挑む者たちが現れました。密林の中、悪臭を放つゴミ山に住むハエたちです。ハエは「おれたちは世界一えらいんだぞ」という態度で生き、大集団をつくっていました。ハエたちはこの世界で最も偉大で重要な存在は誰かをはっきり思い知らせるために、ヒダエモンにサッカーの試合を申し込んだのです。
とんだ災難! ヒダエモンはサッカーの勝負をすることになりました、と思います?
勝負はしました、たしかにしました。けれど・・・。
しなくてもいい勝負に出て、自滅するのは、きまって愚かな人間です。焦ったり、自意識過剰になったり、あたふたしたりして、自分の心を自らかき乱す人。他者を敵か味方にしか見られないのも、悲しい人間です。