神奈川県の鉄道の旅。特にJR鶴見線には私好みの見どころが多い。その中でも、駅が好きな私にとってこの駅は見逃せない。そこは想像を超える駅だった。
前回書いたようにこの路線の完乗難易度は高く、行きついた先は絶景、且つ駅から出入りができないという実に変な駅がある路線だ。そんな爽やかな絶景駅とは対極を成す暗~い駅がある。まだまだある、そんなJR鶴見線の特異な点はご紹介。
3.「昭和の風情」を遥かに凌駕した駅
全国の鉄道の全てに乗り、バイクツーリングでも秘境駅や変な駅や重要文化財的な貴重な駅を数多く訪ねている私だが、この駅は未訪問だった。この駅の存在は当然知っていたし、メディアでも取り上げられたことがあったので、どんな駅であるか事前に理解はしていたが、実際にその駅に立つと、その佇まいに驚いた。こんな駅が大都市の市街地、それも主要駅である鶴見駅から一つ目にあるとは。その駅名が振るっている。「国道」。主要幹線でもあり、箱根駅伝のコースにも使われている国道15号の道路際にあるのだから間違いではないが、国道に面している駅は日本中にいくらでもあるのに、この駅はそれらの代表かのように「国道」の二文字でしか名乗っておらず、まさしく”ザ・国道”。これはいったいどういうことなんだろう。
国道15号から見たJR国道駅の入口
右側の壁(網の掛かった部位)には大戦時の機銃掃射の弾痕が残っている
そんな大それた名前が付けられているが、この駅、ひと言で言えば、良い意味では「風情がある」「郷愁を感じる」「レトロ」だが、正面切って言えば「暗く」て「ボロく」て、少々「怖い」。戦争直後の朽ち果てた大都市の駅に戦災孤児たちがたむろする映画のシーンを撮ろうとしたなら、この駅はドンピシャだろう。営業しているのか定かではない店もあるが、失礼ながら、やっていたとしても果たして客は来るのだろうか。
改札口付近は少し明るい
これを「渋い!」というか、「暗い・・・」というか

一軒だけ看板を掲げてあったが、今でも営業しているのだろうか
女性が一人で夜にここを歩くのは少々怖いのでは?
訪問時、肌寒い朝ということもあって、少々”もよおして来た”のでトイレに向かった。近年、日本の公衆トイレの素晴らしさはインバウンドにも定評らしい。特に駅のトイレがその代表格で、首都圏なら尚更だ。鶴見駅から一つ目のこの駅も、もちろん例外ではなかろう、と思ったのだが、ゲゲゲ・・・。和式便器の小部屋のそこはおぞましい光景になっており(詳細略)、すぐに踵を返してしまった。もちろん水洗トイレなのだが、そこは清潔とは縁遠かった昭和時代の「便所」だった。昭和時代、トイレはまだ便所(もはや死語)と称されていたが、トイレだけは令和とまでいわないまでも平成レベルにして欲しい。

改札を入って階段を登ると、踊り場から上り線ホームに繋がる空中回廊のような渡り廊下がある
そんな駅ではあるが、工業地帯を走るJR鶴見線としては例外的に人口が密集する市街地の駅で、平日の朝ということもあってか、多くはないがそこそこの数の人がこの駅を利用しており、決して秘境駅では無い。この佇まいを大幅に改良するほどの利用者数ではないし、この「ザ・昭和」の駅は貴重だからこのまま使用して欲しいと思う。ただ、トイレを洋式に変えることと、女性でなくても少々恐怖を抱かせる薄暗さと陰鬱な雰囲気は、ノスタルジーを無条件に好評価に結びつける一部の声を無視してでも、少し改善した方がいいと思う。なんせ公共交通機関なんだし、駅はその町の表玄関でもあるのだから。
「う~ん、味があるなぁ」と思える人は一部か?
国道駅下り線ホーム
4.駅名にも着目
「国道」駅の名も面白いし、前項で昭和時代のことを引き合いに出したが、この鶴見線には「昭和」という名の駅がある。由来はこの地に「昭和肥料」という会社があったから(昭和肥料⇒昭和電工⇒レゾナック)。その他の鶴見線の駅名にも注目すると、この路線にはこの地を発展させた経済人に因んで命名された駅名が多い。
「安善」駅は、鶴見線の前身である鶴見臨港鉄道を資金面等で支援した安田財閥創業者である安田善次郎に因んでいる。「浅野」駅は鶴見臨港鉄道の設立者で、浅野セメント(現太平洋セメント)や浅野造船所(現ジャパンマリンユナイテッド)などを興した浅野財閥創設者でもある浅野総一郎。「大川」駅は製紙会社を興し、「製紙王」と呼ばれた大川平三郎。「武蔵白石」駅は日本鋼管(現JFEスチール)創業者の白石元治郎にちなんで駅名が付けられた。そうそうたる大物がこの地で産業を興し、今でも沿線上にそれら旧財閥系の大会社が林立している。
JR鶴見線ではないが、近くを走る川崎市内の京浜急行大師線にも今回乗った。その路線にある「鈴木町」という駅に停まったとき、「駅名的に違和感あるなぁ」と感じ、周囲を見渡すと「味の素」の大きな事業所ばかり。もしやと思って調べたら、味の素の前身会社の創設者である鈴木三郎助からとった町名だそう。この大師線、川崎大師参拝のための路線という側面でしか見ていなかったが、実際に乗ると、味の素に通勤する方々の路線と言っても過言ではないと感じた。
鶴見線終着駅の扇町駅
AIだの、DXだの、ITだのと、製造業に脚光が浴びにくい時代になった。東京の中心地には超高層ビルが林立しており、たまに上京すると、「すげえなぁ、東京は」と田舎者にとって驚きの連続だ。でも、工場が無ければモノはできないし、モノがあっての現実社会。近年、日本の国力は低下の一途だと言われて久しいが、製造業の会社がひしめく工業地帯を走る路線に乗ると、ちょっと元気を貰える。そんな活力を少し感じられるのも、この路線の魅力のひとつ。大都市の中心から近いのに運行ダイヤ的に少し行きづらいが、是非訪れて欲しい。
お口直しに、小田急線の片瀬江ノ島駅
龍宮城をイメージしたそうだが、国道駅とは対極のきらびやさにクラクラする

















