隣を歩いていいですか -7ページ目

17.心の支え

まだ一緒にいたい気持ちと

いまは、一人でいたいという気持ちが交錯する。


それでも私は、彼の車を降りた。


私は一人暮らしの部屋に上げるつもりはなかったし

もしかしたら、また数日後、すぐに会えるんじゃないかとも思ったから。


少しの間、彼の車を目で見送った。

部屋に入ってからも、まだ

気持ちと、今まで起こってることが

うまく整理できないでいた。


何が正しいのか、何が間違ってるのか

そんなことはないかもしれないけど

会って良かったんだ

それだけはお互いにとってプラスだった。


彼の顔や言葉が

私の心の支えとなった


それでも

それから数日間は

用があって、彼の職場の近くを通りかかった時は

必然的に、彼の姿や車を探していた。

見つかるわけもないのに。

見つかったからといってどうしたいってわけでもないのに。


ストーカーだな私…


こんなことしててまた嫌われたらヤだし

もうやめよう。

16.隣にいても心の距離は?

彼の核心に迫る答えを聞き出せないまま

車は走り続けた。


2人を取り巻く空気は

とても重たかった。


私は、こういう状況がかなり苦手だ。

こんな肝心な時でさえ、彼の気持ちを探ることはできなかった。


もう一度同じ質問をしてみたのだけれど

返ってきた答えは

YESでもNOでもなかった。


そして、私の住んでいるマンションの前に

車は止まった。



今日は、彼の顔を見ることができただけでも

満足してた私は

背もたれから体をゆっくりと起こし

車を出ようとカバンの取っ手を握り直した


「帰るん?」


ここまで来て何を言ってるんだろう。


「私ね、すぐには無理かもしれないけど

今回のこと許してほしいって思ってる」


「手料理でも作ってくれたらな」


本気か冗談か分からないような答えだったけど

それで、少しでも戻れるなら

してあげたいと思った。

彼の求めるものなら、何だって出来る


いつだって…どこだって…

貫き通せる感情だった。


「うん

再び、車を出ようとすると


「この曲いいやろぉ」

ステレオから流れてくるのは

鬼束ちひろの曲だった。

重苦しい空気を変えるかのように

曲が流れていった。


「この曲終わるまでおって」


2人ともこれといった会話をすることなく

ただ曲を聴いていた。

続けて彼は同じことを言って結局、2曲終わるまで

彼の隣にいた。


「それじゃ帰るね」


「じゃぁ前の信号が赤になるまで」


十数メートル前には青になったばっかりの

信号があった。

街頭もあまりない暗い夜に、

まぶしいくらい

信号は光っていた。



こうしてまで、一緒に

いたいと思ってくれるのは何故なのだろうか。

私の心の傷を癒すため?

そう願うしかなかった…

15.彼と会って

「これから会える?」



会ったからといって

何が変わるわけではないと思っていた。



会うことはこれから

前に進むための一つの過程。


「今から車で迎えに行くから。」



なぜか一瞬冷静になれた。


それでも、その後から

鼓動は高まる一方だった。


15分後。

彼の車が見える。

乗り込むのに勇気が要った。

躊躇した。


助手席に座ってからも

彼の顔は見れなかった。


「ごめんね。」



そう一言いうと。

私は、ずっと、窓の外の流れる景色ばかり見ていた。


信号待ち。

何気なく、彼の方を見ることができた。

ヒゲは伸びて、頬は少し痩せていた。

隣にいるのは、前に見た彼とは

別人のようだった。

(入院ってやっぱ本当だったんだ…)


私の視線に気付いた彼は

顎をさすりながら


「ヒゲくらい剃ってくればよかったな」


とても、弱く笑った。


近くの海の見える場所に

車は止まった。


彼は、入院してたこと、

その間携帯の留守電に設定していたのに

私に勘違いさせるようなことをしたと話した。


私は、以前、車に連れ込まれるような体験をしたこと、

彼のことを心配してたことなんかを話した。


「いろいろ迷惑かけてしまってごめん

嫌いになってしまったんなら、別れてもいいよ」



この言葉は、本心だった。


でも彼は、


「そういうことじゃなくてな…」



あいまいな言葉を放ち

車を走らせた。

14.優しくない優しさ

1時間後


気付くと2件のメールが入っていた。


「やっぱり会おうか。

今お前が悲しい顔してるかと思うと辛い。

そうでないなら俺も平気なんやけど。」




「大丈夫?

泣くなよ?元気に笑って

マジ心配になってきた。泣いたらあかんで?」




何でこんなことを送ってくるんだろうか?


もうきっと嫌われてると

確信を持っていた私にとって

このメールを目にした時の気持ちは

嬉しさよりも戸惑いのほうが大きかった。


こんな時に、優しさを出す彼をズルイとさえ思った。

言葉の一つ一つが胸を突き刺す。



苦しい。。。



会いたい。


けど、どんな顔で会おう…

どんな言葉を交わそう…



13.掻き立てる言葉

私の予想を裏切るように


メールは続いた。



「でもまだ好きみたい。つらいけどね。。

もう俺のことは気にするな」


このメールが来たときには

もう自分の気持ちを抑えることができなかった。

たまらなく彼を好きな気持ちが

湧き出してくるようがった。


そして、その気持ちと一緒になって

出てくるかのような

涙も止められなかった。



もう、このまま終わってしまうのは嫌だ。


「会えないかな。」


率直な意見だった。

メールだけじゃお互い分からないことが多すぎる

そう思ったからだ。



「まだ会うのはちょっと。。俺は残念なんよ

ただただ残念なんよ。悲しいんよ

本当にごめん」


彼の意見かも正論かもしれないし

枯れることのない涙を流していた私は

このメールを返せずにいた。

しばらく携帯を離した所に置いていた。


でも、連絡が取れたことと

メールでつながれたことの安堵感が

私を包んでいた。



そのときにも携帯はメール着信を知らせていた。