10歳の夏休みの夜だった。

 

父方の実家の和室で従兄弟達と一緒に布団を並べて眠っていた。

部屋の中央から蚊帳が貼られていた。

 

夏だと言うのに、まるで冷蔵庫の中にでもいる様に寒くて目が覚めた。

 

着物の裾が見えた。白い着物だ。一番端の布団に眠っていたので、私の横の、その着物の部分に人が立っているのは違和感があった。蚊帳が邪魔して立てない筈だから。

 

私は、蚊帳の外、床の間に掛けてある掛け軸を着物の裾と勘違いしたのかな?

それとも、蚊帳の外に誰か立っているのかな?と考えて、そっと手を伸ばした。

 

触れた…触れたと言う感覚が確かにあった。着物の裾をめくったのだ。

 

あぁ…これは、私のすぐ側に確かに立っている。上を見上げるのは怖くて出来なかった。

どんな表情で私を見下ろしているのか、それを確かめる勇気などあるはずない。

 

怖くて、怖くて、布団を被っていたら、いつの間にか朝になっていた。

 

朝食の時、誰か夜に部屋に来たか尋ねたけど、勿論誰も来なかったと言う。

 

着物の裾は死装束の様に左前だった。