ある人は自分を取り巻く環境とあまりにも密度の濃い関係を築いているため、その中で変わることは状況をさらに悪化させると「感じ」、変えることを「考える」ことすらできないと言います。確かに論理と感情は相容れないものです。ただモノが人の命以上の価値を持つようになると、感情が理性を従属させることになります。従ってこのような生き方は悲惨なほどに軽率と言えます。ただ生命体は常に変化し、それがその最たる特徴でもあります。停滞するもの全てが固くなり、結晶化し、しまいには塵と化します。私たちも常に変化しています。私たちの肉、血、骨は数週間後、数年後には別のものに生まれ変わっています。子どもの頃、甘い物が好きでアルコールの匂いを嫌っていたのが、大人になると甘いものへの執着が薄れ、ワインを楽しんで味わえるようになります。心地よさと不愉快、美と醜、欲求と嫌悪、良い悪いが入れ替わってきます。何かに執着することは息を止めている状態に似ています。最後に息苦しくなってしまうのです。自然と私たちの好みも変わっていきます。私たちに合わなくなったものを切り捨て、「去る者は追わず」を決めましょう。いつまでもそれにこだわっていると人生が複雑になるだけです。変化を自然なこととして受け入れるのです。自分でコントロールできない物事から潔く手を引くことこそが、唯一安らかに生きるコツ、将来への不安を紛らわせる唯一の方法です。