本当の安らぎは、幸福の幻想の中に生きることを止めることで得られます。何故なら幸福とは決して確かなものではないからであり、ある見方をすればこれは苦痛のもうひとつの形とも言えるからです。幸福を手に入れると、それを失う恐れが常に存在します。ここで幸福と安らぎが、2つの全く違った価値観であることを認識する必要があります。「幸福」とはほとんどの場合外界の物事に依存するものです。「安らぎ」とは自ら作り出す「状態」のことです。たとえ自分を取り巻く全てのものが崩れ去ったとしても「幸福」とは裏腹に、自分の存在の内に「安らぎ」を覚えることはできます。それではどのようにして、この「安らぎ」を見つければ良いのでしょう?まずは「放棄」する自分を「無抵抗の状態」に置きます。そして欲求すること、物事、言葉、人、それに自分が「自分」であること、ひいては幸福という概念にさえも執着することをやめるのです。禅では物事全てがうつろいやすいことを認め、それに逆らわないように教えています。これは物の良し悪しに関わらず、依存しないという姿勢を言います。一見、矛盾しているように見えますが、一度この状態に到達すると日々の生活は著しく改善されていきます。私たちの精神が幸せになるために必要とする物事、人、条件などが無理をしなくても向こうからやってくるにようになります。私たちはその幸せが身辺に留まっている間、好きなようにそれを堪能すれば良いのです。その幸せに依存するわけではないので、失ってしまうことへの恐怖心もないわけです。世にあるさまざまな治療法にはそれぞれに効力があると思いますが、私たちの生命の流れを修復してくれうものでこの「放棄すること」と「無抵抗の実践」ほど効き目のあるものはないでしょう。