Amazonで検索すれば「勉強する理由」というタイトル本だけで何冊も出版されています。タイトルが違っても内容が「勉強する理由」の本を入れたら膨大な数になるでしょう。とても全部を読むことなどできません。そもそも読む必要があるかも疑問です。何故なら勉強する理由は個人により違うからです。他人の理由を聞いてもあまり意味がありません。真似すれば良いというものではないからです。

自分は何故勉強するかを考えたことがありますか?自分で考える前に、他人の考えを知りたがるようでは困ります。そういう親の姿勢が子どもの「勉強しない理由」になっていると言っても過言ではないからです。勉強する理由は内発的なものなのです。

「勉強する理由」も「トレーニングする理由」も唯一の正解はありません。正解などどこにもないのです。何故なら、それは内発的な、個人の価値観に依るからです。大事なのは、親が「勉強する理由」にせよ「トレーニングする理由」にせよ、そういうものをちゃんと自覚しているか、その自覚のもとに生活しているか、です。それが明確なら子どもはそれを見て取るでしょう。

私が勉強する理由を紹介します。私は今、精神科という診療科の医師の仕事をしています。精神科医の仕事は患者の心(考え方や行動様式)や身体、生活ぶりなどを見渡し、精神の具合を悪くする原因を探し、それを修正することです。そのプロセスにおいて精神科専門の知識はもちろん、脳外科、神経内科といった他の診療科の知識に加え、心理学、哲学、歴史、経済、と幅広い知識が必要です。「これだけやれば大丈夫」といった範囲などはありません。やってもやっても次々他に知りたいと思うことが出てくる。そういうものです。幸運なことに私は指導医に恵まれ、目標とする「医師像」や「治療スタイル」を早い時期に持つことができました。松下先生です。松下先生の仕事っぷりはもはや医療というより芸術です。外来の1シーンがまるで映画を見るようなのです。つい先日も松下先生が電話で患者家族に説明する様子を隣で聞いていたナースがその「素晴らしさ」に心を打たれ、病院中の噂になっていました。あるいは外来で松下先生が患者にする「お話」を聞いているうち、同席のナースが涙を堪えきれなくなり、診察室の裏側で感動のあまり号泣するということも珍しくありません。これらは全て松下先生の「勉強」の賜物です。多くの医者が専門医を取得するや勉強の手を緩めてしまうのに対し、松下先生は試験とか学会発表とかに関わらず「ずーっと」勉強している。常に何かしらの勉強をしています。松下先生の部屋の片面の壁は全て本棚になっていて、膨大な数の本が詰まっています。医学本だけでなくカールマルクスの「資本論」もある。ありとあらゆるジャンルの本があるのです。いまだに大学入試の数学は当時よりも解けると言っており、それすら患者の診療に役立てているのです。

そんな松下先生の勉強っぷりを間近で見ている私が勉強しないはずがありません。親が勉強している子どもは自然と勉強するのです。その勉強は受験勉強に限ったことではありません。自分と自分を取り巻く周囲の人生をより良くするためです。共に働くスタッフが勉強するのはもちろん、患者にも勉強ウイルスが感染し勉強するようになる。それは患者自身が自分の人生をより良くするための勉強です。私が勉強する理由、少々わかりづらかったかもしれないですが、皆さんの参考になれば。