小3女子です。来年2月から入塾させようと思っています。現在はフルタイムで働いており、学習サポートは十分とはいえません。退職を考えていますが、受験後の再就職が心配で躊躇しています。自走するタイプではありません。仕事との両立は難しいでしょうか?

という相談なのですが、皆さんいかがでしょうか。ん?と思った方はいませんでしょうか。

最後の一文、「仕事との両立は難しいでしょうか?」の主語は子どもではなく母親です。母親は、受験サポートと仕事の両立は難しいですか?と質問している。主語が「母親一般」なら回答は「難しい人もいるしできる人もいます」となり、「今回相談者の母親」というのなら「それは分かりません。あなた自身のことですから」となる。そういう問題を全くの赤の他人に質問する人が増えているということを冒頭に書きました。

こういう質問をする人の心の根底にあるのは「保証(お墨付き)が欲しい」という心理です。自分の未来の件が「(やってもいないうちから)うまくいく」もしくは「皆やれている(だからあなたも大丈夫)」と誰かに保証してもらいたいという心理です。「僕は東大に合格できますか?」「私は医者になれます?」「私の息子は開成中学に合格できるでしょうか?」といった具合です。成功が保証されなければ(誰かのお墨付きがなければ)怖くて頑張れないチャレンジできないという論理です。精神科医としては極めて深刻な事態と考えています。特に親がこのような考えに支配されていると、当然「そんな保証はありません」から、不安に翻弄され続けることになる。親の不安の悪影響は子どもに強く出る。だから深刻なのです。そして自分の未来の件を他人に質問するというのは自己操縦感を自ら放棄していると言っても過言ではありません。そういう姿勢を子どもに受け継いでもらっては困るのです。

佐藤ママが回答の冒頭で述べたのは「子供のために時間を作るのは大事」という言葉です。タイムマネジメント、時間管理です。当然といえば当然なのですが、実は今回の相談にはもっと根深い問題があり、相談者はそこに気づいていません。お気づきですか?相談者は「フルタイムで働いているからサポートが十分でない」と考えている点です。この考えに支配されてしまうと何がまずいか。工夫を凝らすことをしなくなることです。フルタイムで働いているからこそ上手くやろうという発想をしなくなることです。フルタイムで働くということは時間に制限が加わるということですから、ならば工夫を凝らして上手くやるしかありません。そういう発想を放棄しているのです。するとどうなるか。極論、そういう親の子供は算数が弱くなります。何故なら、算数や数学は「どうやったら上手くやれるか」を試行錯誤する力を育む科目だからです。こういう思考は机の上だけで身につくものではありません。日常生活で身につけるものです。例えば自宅から駅まで通常ルートなら所要時間が10分かかるとします。しかし今日に限って8分で着かねばならなくなった。さてどうしよう?という事態になった時、どれくらい工夫を凝らすかという話です。普通に歩いて10分だから8分なんてとても無理!とハナから諦めてしまうようでは困るという話です。こういうことを普段親が自分の頭で考え工夫している姿を側で見ている子どもは「工夫するというのはこういうことか」と体感することができるのです。