情報洪水時代では「子どもの能力は10歳までに決まる!」といった論考が次々発信されています。10歳と言う人もいれば、9歳と言う人、6歳、3歳と言う人もいます。一体全体どういうことなのでしょうか。答えは簡単です。統一した見解がないということです。つまりそれを裏付ける科学的根拠のない、「僕はこう思う」「私はこう思う」程度の、個人の経験による意見にすぎないということです。しかも日本では科学的根拠を示すための大規模追跡調査を、文部科学省がこれから行うと言っている状態。我が国では大規模調査は未だなされてもいないってことです。信頼できるエビデンスなどあるはずもありません。
 
そもそも「子どもの能力」などという曖昧な対象を統計学的処理することはできません。能力って、一体どの能力の話ですか?って話です。統計をとるには、目的とするテーマや対象を具体的にする必要があります。これは統計学の基本なので知っておきましょう。でないと小林尚先生の言う「情報戦を制する」ができず、逆にクズ情報に翻弄され、不安を煽られることになりかねません。

ちょっと考えてください。何故「10歳までに決まる」とか「6歳までに決まる」といった過激な発信がなされるかということを。これも簡単なことですが、人々の注意を惹きつけるためです。「10歳」と限定的に言うことで、人の注意を惹きつけ不安を煽る、いわゆる不安商法です。多くの子育て初心者の心にある「乗り遅れちゃいけない!」的な焦る気持ちを利用し、6歳だの10歳だのと具体的数字を言うことで、不安を煽り冷静な判断力を奪っておいて、自分の商材を買わせようという、精神科医の私に言わせれば、下劣な方法です。そういうことをやる輩が次から次へと現れるから、不安に翻弄される親が疲弊し、自制心を失い、感情的になり、最も肝心な子どもの話を聞くことが疎かになり、子どもを頭ごなしに叱ったりヒステリックに喚き散らしたりするようになるのです。そういう下劣な情報には極力近づかないのが賢明ですが、もし興味本位に見たとしても、決して飲み込まれる事なく「ふーん、そういう考え方もあるのね」くらいに受け取り、無責任な情報に距離を置くという姿勢を身につける事をお勧めします。