非認知能力は色々な能力の総体です。中でも私が最も重視するのは誠実さです。誠実さの辞書的な意味は「嘘偽りがなく心の底から思って事にあたるさま、素直で真面目なさま」とありますが、辞書的な説明ではピンとこないでしょう。やはり「この人は誠実だなあ」と感じる実物を味わうのが一番だと思います。土曜の夜、夫がうちに連れてきた新入社員の中でいちばん体の大きかった男の子に私が真っ先に感じたのがこの「誠実さ」です。長い時間を一緒に過ごさなくても、ほんのわずかな時間でも、なんなら初対面の挨拶や表情仕草、そして言葉選びとかからでも、誠実さをうかがい知ることはできます。

私個人が「誠実さ」を説明するなら「わかりやすい人」「一生懸命取り組むのが当たり前になっている人」です。本来の意味からは多少ずれているかもしれませんが、私にはこの説明がしっくりくるのです。宴会の席で「新入社員代表の挨拶をここで再現してほしい」という私のリクエストに対し、彼は「えー」とか「それは、、、」とかウダウダ言わず、潔く「やりますか」と言ってすぐ立ち上がり、胸を張り、大きく深呼吸して、茶化したり手を抜いたりすることを一切せず、本番さながらに熱く演説しました。ほんの1分くらいでしたが、一生懸命やっていた。目の様子やくちびるの動き、声の張りなどから、私には彼の誠実さが十分伝わってきました。

ありがとう!すごく良かったし胸がジンとした。何より誠実さが伝わってきた。誠実さをこんなに味わったのは久しぶりです。

ありがとうございます!誠実さですか。全然意識してないですけど、ほめていただいて嬉しいです!

非認知能力は意識してできるものではありません。身についていて意識せずとも勝手に行動や振る舞いに出るものです。例によって私は探究心を抑えることができなくなり、その後も彼に色々質問をしてしまいました。

前田くんのお父様はどんな人ですか?

父はサラリーマンで、ラグビーをしていたわけではないんですけど、幼稚園の頃からラグビースクールに入れてくれて、いっぱい写真を撮ってくれました。見ます?

前田くんはそう言い、スマホから父親が撮ってくれた写真を次々スクロールし、実に嬉しそうに見せてくれました。

わーかわいい!笑顔で走ってる!体は今と全然違うけど、顔に面影が残ってる。本当に楽しそう。素敵な写真をありがとう!お父さんはカメラが趣味なんですか?

全然違います。でもおれがラグビーしてる姿がすごく好きだって言って、わざわざちゃんとしたカメラを買って練習とか試合に来ては写真を撮ってくれたんです。おれ、子供心に、絶対がんばろう!って思ってました。コーチにこっぴどく叱られたり先輩にいじめられたり、色々あったけど、何故か「がんばろう!」って思えるんですよね。

私には前田くんの父親がカメラを構え、夢中で息子を追いかけている姿が容易に想像出来ました。きっとお父さんは前田くんのことが無条件に愛おしく、兎にも角にも見続けたのではないでしょうか。そしてその気持ちが前田くんに確かに伝わり、お父さんが見てくれているからがんばろう!と思えたのではないでしょうか。