次男の親友西野君は大学3年生ですが、医師の私と同じかそれ以上のお金を自力で稼いでいます。西野君は高校時代、マックのバイトの面接に落ちたことを契機に自分で仕事をつくりました。野球部の練習をしていると、どうしてもシフトのアルバイトは無理だし、何時間も拘束されても困るので、隙間時間の2時間とかでお金を稼ぐことができないかと考えたのです。高校生の西野君が思いついたのは「犬の散歩代行」です。地元の掲示板に「高校生野球部デブがあなたの愛犬の肥満を解消します!」と広告したらたくさんの人から依頼メールが来たというのです。キャッチコピーが秀逸ですよね。「デブなら犬の肥満を解消している暇があるなら自分の肥満を解消しろよ」って話ですよね。ここが人々の脳に刺さったのだと思います。「高校生」を出したのも良かったんじゃないかな。私でも依頼したと思います。

最初のうち1時間の散歩を1500円でやってたらしいのですが、中には2000円、3000円払ってくれる人もいた。ここで西野君は「あれ?」と気付いたそうです。マックや飲食でバイトをしていたら、こういう現象は起こらない。誰が何時間やっても時給1200円です。西野君は「報酬」を構成する要素のうち「お金を払う人の心理」に気付いたのです。そして西野君に犬の散歩を依頼する人の「話を聞く」というサービスも付加しました。悩み相談です。すると都会で犬を飼う人の悩みをたくさん知ることができました。独身単身で犬を飼っている人も少なくなく、朝から夜遅くまで犬をひとりぼっちにしていることに強い罪悪感を感じている人もいた。予防接種に連れて行くために会社を休まなければならない人もいた。急な出張で犬を預けようにも「急には無理」と言われ困り果てることがあることも知りました。その後西野君は「犬の散歩」をきっかけに、都会で犬を飼う人の苦悩解消サービスにビジネスの幅を広げていったのです。

西野君は大学にスポーツ推薦でなく正規の入学試験を受けて入りました。理由はスポーツ推薦枠に「行きたい学部」がなかったからです。飼い主の依頼で「犬小屋制作」に取り組み始めた西野君は、飼い主が掃除しやすく、カビや虫がわかないような、かつ、犬が快適に寝られる「材質」が何かを研究するため、材料工学を勉強しようと大学に進学したのです。一方、東京都下や埼玉県川口市などの中小企業の社長に「犬小屋を作るのに最適な材質を探しているので相談に乗って欲しい」とメールしたところ、何件かの社長が「おもしろそうだ」と興味を持ち、会う時間を作ってくれたそうです。中には「うちに就職しないか」と誘ってくれた会社もあったそうです。そりゃそうですよね、私が経営者でも同じことを言ったと思います。こんな面白い子、そうそういないですよ。

大学1年の夏、西野君はクラウドファウンディングで資本金を調達しました。集まった金額は3000万円を超えたそうです。もちろん私も出しました。夫も松下先生も出しました。こうして西野君は1時間1500円の「犬の散歩」をきっかけに、会社設立→経営という流れをすべて自分でやったのです。わからないことは大学の教授をつかまえて質問したり、関わった経営者に教えてもらっていると言っています。こういうのが「生きた勉強」というのではないでしょうか。