柳沢幸雄先生の名著です。この本は特に男の子を育てる親全員に何度も読んでほしい一冊です。今回は冒頭の部分を取り上げます。この冒頭の部分に親が子どもに与える教育の目的が明確に示されているからです。

私は、日本の高校生は世界一と考えています。勉強、運動、学生生活、あらゆる面において非常に能力が高く、向上心もあるからです。しかし残念ながらそれは高校時代がピーク、そこから先は海外の学生に抜かれていきます。それには「自己肯定感」が大きく関係していると考えています。

科学者としてキャリアをスタートした私の興味の中心にあったのは常に「教育」でした。ですから、ハーバード大学で研究員として働いた後、教授として学生に教えるようになったのは自然な成り行きでした。ハーバードでの授業は刺激的なものでした。まず授業中に私の方から学生たちに質問することはありません。適切なタイミングで学生の方から質問が飛んでくるからです。ハーバードの学生にとって、発言するということは、いわば陣取り合戦。時間という陣地をいかに先に取るか。そうすることで自分の存在を明らかにしないことには、彼らはアメリカという社会で生き残っていくことができないのです。人が話しているときに声を重ねるのはタブーですから、一瞬の隙を狙って自分の意見を発表するために、学生たちは集中して授業に臨んでいました。緊張感がありながら授業が盛り上がるのは、このような学生集中力に負うところが大きかったと思います。

日本へ戻って、母校の東京大学で教えることになって驚いたのは、この緊張感の欠落でした。「何か質問は?」と聞かなければ、質問が出ない。質問をしても、学生たちの反応は周りを見ることでした。誰も発言しないため、順次当てていくこともありました。彼らが高校卒業の頃は間違いなくハーバードの新入生より優秀だったはずなのに、この時点で明らかに差をつけられているのを感じました。