入学試験やスポーツの試合に臨むに際し、良い精神状態を作ることが欠かせないことは今や常識と言って良いのではないでしょうか。まして中学受験をするのは精神的に未熟な小学生です。小学生の子どもが自ら「精神的に良い状態にしよう」などと考えるはずもありません。そこは大人である親の役割です。この件について繁田先生は次のように述べています。

大事な局面では努めてポジティブな言葉を言い聞かせるようにしてください

そのポジティブな言葉の代表が「大丈夫」です。親の子どもへの「ダイジョーブ」は親が思うよりはるかに子どもに効きます。私は自分の子育てを通じ、この「ダイジョーブ」の効能のすごさを思い知りました。夫は「ダイジョーブ」の名手です。巧みに「ダイジョーブ」を使っていました。皆さんにもぜひ、受験直前期に限らず普段から、子どもへの「ダイジョーブ」の取り扱いを極めて欲しいと思うのです。

動画内で繁田先生がご自分の中学受験の体験談をお話になっているのですが、灘中学の試験前夜にアクシデントがあり、繁田少年が真夜中の2時に母親に電話した時の母親のセリフです。

寝られなくなっちゃったのね、でも寝られなくても大丈夫よ。寝れなくても受かるから。

繁田先生の母親は基本心配性であるにも関わらず、その場面で焦った素ぶりを見せずに繁田少年を安心させるような声がけをしたというのです。ここはよく覚えておいてください。この局面で親が焦って不安に翻弄されるようでは困ります。このくらいのことは起こりうると想定し、親は自分の不安をしっかり自制し、そんな気持ちをおくびにも出さぬよう、普段から訓練して欲しいのです。こういうことは急にできるようになるものではありません。しかも中学受験というのはそう何度も経験するものではありませんから。誰しも未経験の件には焦ったりしがちです。子どもは特にです。なので親は普段から、自分の不安を自制する訓練をする必要があるのです。

精神科医としてアドバイスするなら、いかなる場面でも焦って良いことは何もありません。例えば「電車に乗り遅れる」とか「塾の面談に間に合わない」といった話です。このような普段ありがちな場面を利用し、子どもに「焦って良いことは何もないのよ、大丈夫、なんとかなるから」と余裕綽々で教えてあげるのです。この「なんとかなる」は人生のキーワードです。正確に言えば「なんとかする」ですが、自分が落ち着かないことには「なんとかする」こともできません。遅刻がよろしくないことは社会通念ですが、長い人生のうち1度も遅刻をしないということもあり得ません。「こういう時は誠心誠意謝れば良いんだから」と笑顔で教えてあげましょう。