精神科医として懸念していることがあります。良好で安定した人間関係を維持することができない大人が増えていることです。これは非常に深刻です。精神の具合が悪くなる理由は、何も仕事やお金の件ばかりではありません。良好な人間関係を維持できないというのも、精神の具合が悪くなる原因の一因です。

リアルな対面の関係のみならず、ネット上でも始終友達と繋がって「いなければならない」と訴える子どもの多いこと。「○○しなければならない」というのは義務感です。が、人間関係は義務で成り立つものではありません。相手に好かれることばかり考え、討論も反論もできない関係を友達というのでしょうか。私はそうは思いません。たとえ「歯に衣着せぬ」言い方をしても、良好な関係を維持できるのが、「気のおけない」友達ではないでしょうか。「気のおけない友達」の意味を間違って理解している人も多いので注意が必要です。

「同性の友達なんてひとりもいない」と言う若者も少なくありません。異性にしか興味がないということでしょうか。そういう人は大体具合が悪い。多くの場合相手に依存し、相手に病的に執着し、関係を操作することばかり考えるようになります。「心を許し合う」とか「信じる」という感覚が実感できない関係です。「信じることの気持ち良さ」がわからないから友達なんか必要ないと言うのです。こういうことは医者や教師が言葉で説明するものではなく、親子関係の中で「肌感覚」で知っていくものですから、思春期を過ぎてこのようなことを言っている若者は、その後の社会生活で要らぬ困難に見舞われます。当然のことながら異性関係も上手くいきません。付いた離れたをひっきりなしに繰り返し、結婚したと思ったら、あっという間に離婚したりする。

人間関係構築能力(仲間力)というのは心理学的には、まず同性の人間関係を維持できるようになり、その後異性との人間関係を構築維持できるという論理になっています。

植木理恵先生の本から引用します。

青年期に入ると、親からの心理的離乳を経て、同世代だけでの閉じた友人関係を好むようになる。青年心理学者の宮下一博によると、この時期に同性との深い友情が育てられるか否かということは、心の成長を左右する大きな要因になる。そして青年期に得た「友情パターン」は成人後にどのような社会的対人間関係を結ぶ人になるか、ということと大きく関連している。また同性とどのように付き合うかということが、異性との恋愛関係の雛形になるという指摘もある。

同性との良好な人間関係を維持する能力が、人生における人間関係を左右するという話です。社会で生きていく上で人との関わりは欠かせません。自分勝手な人間関係に終始すれば、結局は自分で自分の首を絞めることになるので、生きていても良いことは何もない、誰も信じられないという気持ちが育まれ、その先に「死にたい死にたい」という人生が待っているのです。