久しぶりに松下先生の真骨頂を拝見しました。外来の待合室で病院中に轟くくらいの大号泣をしている女性がいたのです。何事か?と思い見にいくと、外来看護師が苦笑いしていました。


松下先生です。笑(外来看護師)


あー、そうなのね。だったら大丈夫ね。びっくりした。


子どもやご主人に暴言を吐いてしまう自分を責めて号泣し始めたんですよ。最初はさめざめ泣いているだけだったんですが、みるみる号泣になって、こんな状態です。入院させなくて大丈夫ですか?(外来看護師)


入院って、病気の症状じゃないでしょう。自分を責めて泣いてるんだから。本物の鬱ならこんな泣き方しないし、幻覚妄想に支配されてるわけでもない。で、松下先生はどうしてるの?


コーヒー飲んでます。

あら。そうなの。

ってことで、私は松下先生の診察室を覗いてみました。

先生ー。あの母親どうするんですか?


泣き疲れるまで放っておきなさい。「わかってほしい」んだから。


わかってほしい、ですか?


自分を責めてるんだよ。そのくせ誰かに「あなたは悪くない、あなたは頑張ってる」って言ってもらいたいの。わかってると思うけど、そんなこと言っちゃダメだよ。火に油を注ぐからね。


わかってますよ、研修医じゃないんですから。子どもに暴言を吐いてるんですよね。


そう。母親より、むしろ、子どもの方が心配だよ。母親があんなふうだったら、間違いなく病んじゃうからね。どうやら前に担当してた先生がめちゃくちゃな治療してたみたいで、これでもか!っていうくらい抗うつ薬を処方してたんだよ。アクティベートされてるのに気づきもせず。こんなのうつ病でもなんでもないからね。


あーそれで、放置してるんですね。


そう。薬の影響が切れるまでは情緒不安定が続くから。しかしあれは薬の影響だけじゃないよ。おそらく代々情緒不安定家系。大人になって待合室で狂ったように泣くなんて。子どもが死んだとかいうのならわかるけど、そうじゃなくて自分の問題で泣いてるんだから。親の共感不足だね。子ども返り。


松下せんせー。あの患者、もっと薬出してほしいって言ってます。(外来看護師)


ほらきた。薬だ。ったく、前の医者、メチャクチャな治療してたから尻拭いが大変だよ。こんなの治療って言わないからね。てんこ盛りにした抗うつ薬がアクティベートしちゃってるんだから。


先生、入院させて私に任せてもらえませんか?一度、診断のやり直しをしないと。内科疾患が潜んでるかも。その上の話ですが、一応私も母親だし、共感はできると思うんです。無論、子どもに暴言など共感しません。そうではなくて、ダメな自分に七転八倒する感覚は私もわかるんです。攻撃性を子どもに向けさせないためにも、誰かが寄り添わないと。


うーん、どうしようかな。あの泣き方は普通じゃないからね、共依存になられても困るんだけどなー。


え。私がですか?ないない。共依存なんてなりませんよ。


心配だな。キミ、子育て終わっちゃって気が抜けてるって噂だよ。そういうところ依存者は目敏くつけこんでくるからね。


いやいや、気なんて抜けてません。大丈夫です。私、夜はずっと数学の問題解いてるんで、子育て終わって寂しいとか一切ないです。なんなら病院休んで3日間くらい家にこもって解きまくりたいくらいですもん。


相変わらず狂ってるね。安心した。好きにしなさい。次期精神科部長はキミだからね。お手並み拝見するよ。


ありがとうございます。ところであの患者って本当にうつ病なんですか?


なわけないでしょ。子育て疲れ。あとは代々の情緒不安定家系で、不安処理能力が成熟してないだけ。あの調子じゃご主人も子どもも病んでるよ。家族教育は必須。抗うつ薬は抜かないとダメだよ。