かつて、どちらかというと、私は友人に対して、ベタベタ深入りしすぎた。そのうちに、なぜか苦しくなって、友人に会うのが嫌になった。深く愛し、深く思いやるのは、恋人同士に限るらしい。一般の人間関係は、あっさりしていた方がいい。相手とべったりしすぎると、どうも、いけない。距離を詰めると、妙に相手の考えと自分の考えの違いが気になり出すのだ。たとえ男女の間でも、だんだん交際が深まってくると、無意識のうちに「考え方」の相違が2人の友愛の心にブレーキをかけてくる場合もある。

「風動幡動」。

風がサッと吹くと、幡もパタパタはためく。風が止むと、幡も止まる。風と幡がいつも調和して、付かず離れず、いつも機嫌よく、お互いを傷つけないで行動しているのは、風も幡も理屈で動いていないからなのだ。風と幡が万一理屈をこね出したら、2つの関係は破綻する。無門関にある面白い禅語だ。理屈抜きでは交際できないというなら、相手の考えを常に尊重する訓練が必要だ。




いかがでしょうか。人間関係の極意です。これを習得すれば、人間関係に苦しむことはまずなくなります。人間関係は距離感を間違えると遅かれ早かれ破綻します。逆に、それぞれが距離感のエキスパートなら、その人間関係は順調に深まり続けます。昔、今井美樹の曲の歌詞に、「空に銀のセスナ、離れて寄り添う、あなたとあんなふうに生きるの」というフレーズを知り、とても感銘を受けました。まさにそうだと納得し、以来私は「離れて寄り添う」を心がけてきました。おかげで結婚しても互いに束縛せず、離れたり寄り添ったり、のらりくらりでうまくいっています。人間関係は、仮に恋人夫婦でも、近づき踏み込みすぎたり「全部知りたい」などと思ってはいけないと私は考えます。