妻病んで仕舞ひしままの雛人形 広

 

昨年2月、乳がん手術後の妻の骨転移が分かり、それまで毎年、雛人形のケースを押し入れから引きずり出し、和室に飾っていた妻は雛人形どころではなく、しかし治療の甲斐あって妻の病状はいくらか回復したものの、今年は体調が悪化した娘の入院先の手配に奔走し、雛人形を出せぬまま3月3日を迎えた。

 

娘が生まれた44年前、ぼくたちには不相応な雛飾りを買った。

昨年まで、妻は毎年一人でお雛さんと対話するように飾っていた。ぼくが手出ししようとすると嫌い、何から何まで自分でしないと気が済まないといった顔をしていた。

 

妻は、お雛さんを押し入れから出せない身を愚痴るけれど、ぼくに出してとは言わない。また、出そうかという雰囲気ではなく、妻と娘の回復を待つしかない。