窓越しにしばし桔梗を見てゐたり 広


青みがかった紫色の桔梗を見ていると、若い頃、ある人妻に「お茶の帛紗は紫がいいのよ」と言われた言葉を思い出す。


調べると、表千家、裏千家ともに帛紗は男性が紫、女性は朱色(赤)とのこと。その人はお茶をされていたので、間違ったことを言うはずはないのだが、ひょっとしたら僧侶の法衣の色と思い違いされていたのか。


真言宗の大僧正の法衣は緋色だが、次の権大僧正から権少僧正まで紫色であり、そのイメージを引きずっておられたのかもしれない。


なにも後ろ暗い付き合いはしていなかったが、今から思うと、すこし背伸びされていたフシがあり、携帯電話がない頃のことで、次に会う日時にどちらかが来なければ、それっきりになるというもので、そよ風のような印象しかないけれど、その紫の帛紗だけが記憶に残っている。