何一つ詠めぬままなり辛夷咲く 広


妻の帰宅後、入院中、動けなかったことから足腰が弱り、立ちあがろうとしても足の踏ん張りがきかず、両脇を支えなければならず、妻がトイレに行きたいと言うと、二人羽織のようなおぼつかない恰好で便座に座らせ、用を足せば、同じ格好でベッドに戻らせる。


夜、寝ていても妻から声が掛かれば、二人羽織でトイレに連れて行かなければならない。

服薬にしても、何時間置きという決まった時間に飲ませなければならず、頭がそれでいっぱいになっているのか、句を詠もうとしても、何も浮かばない。


妻の介護に慣れるまでは、俳句を詠む頭にならないようだ。融通の利かないぼくの頭の問題なのだが、句が浮かばないのは、なんとも切ないものがある。