
「へえ、こんな映画もYouTubeで見れるのか」
むかし、大好きだった映画だ。子供のころは、今夜それがテレビでやるってだけで、朝から嬉しくて仕方がなかった。もう何度も見てるから、最後はどうなるかわかっているのに、途中、眠い目を何度もこすりながら、二十三時を過ぎて、はあ、最後まで見られたっていう、満足感に包まれながら布団に入る。映画そのものよりも、その一連の流れを楽しんでいた節さえある。
YouTubeでその映画を見つけて、よし、晩めし食ったら見るか、と思っていたが、結局見られなかった。ショート動画を二、三本見て、マウスをあとほんのちょっとずらせば始まるのに、明日もたいして早くもないのに、歯を磨くのもおっくうになって、ああ、こんなんじゃダメだな、と頭に過ぎりながらも、眠ってしまった。
同じ映画でも、その時しか見られないのと、いつでも見られるので、面白さは変わるのだろうか。たぶん、変わるのだろう。期間限定の商品とか、通販番組のいまから三十分だけこのお値段とか、それをしようとするまでの、こちらの気持が変わる。もちろん映画の結末は変わらず、あの娘と結ばれることになるわけだが。
いま、これだけ物が溢れていて、どこから手をつけていいかわからなくって、迷っているうち手をつけることができなくなって、いざ手にとってみたらなんだかとてもつまらなく思えて、ありがたみがない。だったらいっそ、無人島にでもいけば、YouTubeもなくなって、新聞の四コマ漫画でも大喜びできるはずだから、そうしたらいいのだが、怖くて家から出ることもできない。だから、そういうときは、頭の中でこう唱える。
「いまから三十分だけこのお値段」
あら、いけない。早く買わないきゃ。なくなったらどうしましょう。ねえ、あなた、ちょっと電話とってよ。自分でとれって?あなたの方が近いでしょう、早くとってよ、三十分しかないんだから。ああ、もう、本当にぐずぐずして……
あ、もしもし、さっきテレビでやってた映画なんですけど、まだ間に合うかしら?ああ、そう、じゃあそれ一つ、あ、いや二ぁつ、お願いできるかしら?……俺は見ないよって?なに言ってのよ、あんたのぶんじゃないわよ、隣の奥さんのぶんよ……
あ、ごめんなさいね、こっちの話。じゃあ、お二つ。お願いできるかしら?え、なになに……同じ値段で、話題の最新作が見られる?賞もたくさん獲って、キャストも豪華……ちょっとだけ、悩んでいい?……そうね、あと、二十三分くらい。
(終)

昨夜から、台風が近づいていた。
できることなら、こもったままやり過ごしたかったが、冷蔵庫が空だった。
ところどころできた雲の切れ間から、陽が差している。
「食料を調達しにいこう」
妻とわたしは、身支度をととのえた。
手さげ袋のなかには、折り畳み式の傘、回転式のナイフ、自動式の小銃。
ゲリラに、備えなければならない。
家を出ると、さっそく襲われた。
そろそろお腹が減るころだろうと、行動を読まれていたのかもしれない。
足元を狙い撃ちにされ、妻とわたしは、あえなく基地へ引き返した。
敵方の攻撃が止むまで、備えてあった乾パンでやり過ごした。
敵の気配が消え去り、ふたたび家を出た。
ルートを変更して、今度は店までたどり着いた。
しかし、任務を遂行することはできなかった。
「本日よりお盆休み」
妻とわたしは、プランBへの作戦変更を余儀なくされた。
モスバーガーで注文を終えた途端、攻撃が始まった。
今度の攻撃はすさまじかった。
襲われた同志たちが、あとからあとから駆けこんできた。
普段はあまり入り慣れていない店なのだろう、注文を決めるまでにやたらと時間がかかっていた。
数分前、妻とわたしもまったく同じ状況にあった。
帰り道。
すっかり油断していたところを、また襲われた。
観念して、妻と身を寄せ合って傘に入った。
数十年前の記憶が、よみがえった。
ナイフと銃は、もう必要なかった。
敵の攻撃に向かって、わたしは走った。
(終)

二つのブランコで、二人の男の子が遊んでいる。
お父さんが後ろからブランコを押して、
「ぎゃー」
男の子は悲鳴をあげながらも、楽しそうに笑っている。
すこし離れたところで、一人の女の子がそれを見ている。
女の子に気づいたお父さんが、
「あ、あそこに蝉がいるぞ」
といって、二人を連れて木まで走った。
女の子は、ブランコに近づいた。
そっと、ブランコをこぎはじめた。
ブランコはすぐに、動きをとめた。
女の子は、蝉のいる木を見ている。
お父さんが気づくより早く、男の子の一人が走っていた。
男の子が後ろからブランコを押して、
「ぎゃー」
女の子は悲鳴をあげながらも、楽しそうに笑っている。
二つのブランコで、三人の子どもが遊んでいる。
そろそろお別れと、二人の男の子が手をふった。
「ぎゃー」
女の子は悲鳴をあげながら、すこし離れてそれを見てた。
それに気づいたお父さんが、
「あ、あそこに水道があるぞ」
といって、二人を連れてトイレまで走った。
男の手のひらは、犬のウンコにまみれていた。
(終)