この所、ご紹介する作品が“猫モノ”に偏っています(そんなジャンルはありません)。
そんなわけで、こちらも―
「猫の皿」
―お馴染み(?)、六代目シス皇亭・パルパティン師匠でございます。
古道具屋というモノは、やっぱり掘り出し物に当たりますと、たいそうな儲けにつながったそうでございます。ですが、そこはそれ、おいそれとは出会えるものではございません。
これなる古道具屋、趣味人の多い江戸ではなく、あまり物のわからない近郊の村々を巡っておりました。もしも掘り出し物に出会えれば、そこは口八丁手八丁で買い叩くという寸法でございます。
日が落ちるまでもう少しという頃合い。 方々歩きまわりまして、ここらで一服しようとやってきた茶店。萎(しな)びた店構えは、周囲ののどかな風景にも収まりがようございます。
「いらっしゃまし」
奥から若い娘が、お茶を持って出て参りました。
『ちょっと一服させてもらうよ、団子をもらおうかね』
どうやら猫が好きな家と見えて、辺りにはチラホラと猫の姿がございます。見れば、店先でも子猫が小皿に盛られたエサを食べております。
道具屋、それを見るなりその三毛猫の方へ歩み寄り、品定めをいたします。
勿論、猫ではなく、エサの入った絵皿の方でございます。
その絵皿は“絵高麗の梅鉢”という品で、とても高価な代物でした。
道具屋は頭の中で、素早く算盤をはじきます。
(猫のエサなんかを入れてるってことは、きっとこの家の者は知らないのだろう)
『それにしても、可愛い猫だねぇ。私も前に、このくらいの猫を飼っててねぇ‥‥‥ある時、ぷいっと居なくなっちまいやがった』
「そうでございましたか―、この猫、とっても人懐っこいんですよ‥‥駄目よ、お客さんの膝なんかに乗っちゃぁ―」
『かまやしないよ、本当に良い猫だ‥‥‥それでまた、うちのカカァが輪をかけた猫好きでなぁ―』
道具屋は、店の奥を覗きこんで店の主の姿がないのを確認いたします。
『親父さんは居るかい?』
「あいにく、今ちょっと用時で半時ほど出掛けておりまして―」
『いや、いいんだ。実は、この猫を譲って貰えないかと思ってねぇ‥‥勿論タダとは言わないよ―』
娘を与(くみ)し易しとみて、道具屋はたたみかけます。
『どうだい、これまでのエサ代も込みで、ここに三両ある』
「そんな大金‥‥‥」
『いいんだよ、私はこの猫が気に入っちまった。ここにはまだ他にも二匹居るみたいだし‥‥‥私を助けると思ってさ、カカァの悦ぶ顔が見たいんだよ』
そういって、三両を娘の手に握らせた道具屋は、いよいよ本題に入ります。
『そうだ、器が変わっておまんまの食いつきが悪くなるといけねぇから、あの小皿も貰っていくよ』
「それは、出来ないんでございますよ」
『どうしてだい?』
「お客様はご存じないかもしれませんが、あの小皿は“絵高麗の梅鉢”という名品でございます」
(!!)
『そ、それじゃ、どうしてそんな高価な物を―』
「あの小皿でエサをあげていると―
猫がよく三両で売れるんです」
上には上がいるって話ですなぁ(笑)。
余談ではございますが、一両あれば大人一人の一年分のお米が買えたそうでございます。まぁ。これも時代によって多少の変動はあるのでございますが―
そういたしますと、ペットショップから由緒正しい猫を買ったと思えば、そう高い買い物でもないのかもしれません。
きっと、この道具屋には三両以上の幸せが来ることでしょう。
(勿論、保護猫っていういのも素敵ですよね)
(参考文献:『落語百選 春』 麻生芳伸編 ちくま文庫)