もう何十年も、日本は『ご長寿の国』です。反面、出生率の低下は進み、高齢化社会どころか、超高齢化社会の問題もしっかり視野に入れていかねばなりません。
まぁ、そんな事を私(独り身)が言っても何の説得力もないので、ばかばかしいお噺を―
(昔から、「ツルは千年、亀は万年」なんて言います。そう言えば、カメのキャラはいないのかな?)
で、今回は「ご長寿」とは真逆の『短命』といいうお噺。分類としては、「艶噺(つやばなし)」という演目で、あくまでソフトな男女のお話。ただ、お題が「短命」ではどうにも縁起が悪いので「長命」としている場合もあります。
「ちょっと、聴いてくださいよ、ご隠居」
『どうしたんだい、熊さん。たまに顔出したと思ったら―』
「いえね、表通りの質屋・伊勢屋の養子が三度死んだんですよ」
『馬鹿を言っちゃいけない、熊さん。人はどう頑張ったて、一度しか死ねないよ』
聞けば、父親を亡くし、その後、母も亡くした伊勢屋の娘が迎えた婿養子が、三人たてつづけに死んでしまったという話。
「最初は、祟りかと思ったんですけど、考えてみりゃ伊勢屋の旦那は、とにかく人間の出来た方でやした。そしてその娘さんも、“それに輪をかけた”ってなもんで―」
『質屋ってのは、とかく恨まれやすい商売だからねぇ。その分、徳を積もうとなさっていたんだろうね』
「ええ。ですから、本当に誰かに恨まれるような家じゃないんでさ。なのに、こうも不幸が続くとなると―」
『‥‥‥なるほどねぇ、それで伊勢屋の娘さん―いや今はもう女将さんか、は美人なのかい?』
「そりゃもう、ハッとしちまうような美人で」
『歳は?』
「歳は、三十三、けれど、とてもそうは見えない。ぱっと見は二十七、八ってトコでさ。正月にちょっと着飾れば二十五、六、風呂上がりなら、二十三、四。寝顔なんかは、十代‥‥‥」
『おいおい、化け物じゃないんだから‥‥‥しかし、おそらく原因はそれだね』
「どういう事です?」
『夫婦仲は良かったんだろ?』
「そりゃ、最初の奴から、ついこの間の奴まで、いつもベッタリでやした」
したり顔で頷くご隠居。熊さんに、夫婦の仲が良すぎて―つまりは夫の方が精魂尽き果てるという話をします。
『ご飯をよそって手渡すだろ、その時ふと指が触れる。勿論、二人っきりだから、誰の目も無い。指が触って、手が触って、ひょいっと前を見れば、とんでもない美人がいる―』
「‥‥‥!」
『そりゃ、旦那の方は短命だよ(😁)』
(この部分、実際は熊さんがトボケ倒すので、何度か繰り返します)
ご隠居の話に、一応納得をした熊さんは、「そう言えば、最近‥‥‥(😁)」なんて事を考えながら、家へ帰ってきます。
「おう、カカァ、今帰ったぜ」
『今帰ったじゃないよ。今まで、どこほっつき歩いてたんだい』
「いいじゃねぇか、それより飯にしてくんな」
『なんだい、人の事使ってばかりで‥‥‥ほらよっ』
「ほらよって、お前、もう少し‥‥‥(でも指が触ったねぇ、おい)」
(‥‥‥指が触って、手が触って、ひょいっと前を見る‥‥‥)
「‥‥‥‥俺は、長生きだ‥‥」
(参考 『長命』 NHKCD 落語新名人選 桂歌丸)
(最後のオチに、自戒の意味を込めまして、一言付け加えさせて頂きます)
「‥‥‥なぁんて、てめぇを棚に上げて言ってやがる(笑)」
お後がよろしいようで―