「反対する理由が理解できない」
本年10月3日付けの産経ニュースは、「<独自>石破首相「平壌・東京に連絡事務所」構想を拉致家族会に伝達、理解求める」との見出しをつけ、石破茂首相が北朝鮮による日本人拉致問題の解決に向け、東京と平壌に連絡事務所の開設を検討するという自らの考えを拉致被害者家族会側に説明し、理解を求めたことが分かった」と報じている。この連絡事務所の開設に関し、私たちは北朝鮮人権人道ネットワークのメンバーとして、10月1日付けで「石破茂新総理の拉致問題解決方針を支持する声明」を発表し、その理由も明確にしている。
一方、説明を受けた家族会側は、「北朝鮮に利用されかねないとの懸念が強い」として反対の考えを伝達したという。これは、日朝ストックホルム合意を否定し、連絡事務所の開設に反対してきた家族会・救う会からすれば当然のことであろう。
しかし、北朝鮮に都合の良い情報を発信されかねないから連絡事務所の開設に反対するという家族会の見解は、人間社会の外交交渉や権力闘争のこれまでの実態からすれば未熟な見解だと私は思う。北朝鮮に限らず、自国に都合の良い情報を発信するのは古今東西当たり前の話で、北朝鮮に利用されかねないと躊躇していては、半永久的に拉致問題交渉は進展しない。
古代中国の兵法書「六韜三略」武韜・文伐にある、「第10条 太公「こちらを卑下して敵に仕え、誠意を示して彼の気に入るようにし、彼の意に従って命じることに応じ、彼と生死を共にする者のように見せることです。そして十分彼の気に入ったなら、ひそかに気づかれないうちに、敵国を攻略する謀をめぐらすのです。時機がくれば、天が敵を滅ぼしたかのように、自然に倒れるのを待つというわけです。」」は、現代の外交舞台でも日常的に行われている。権謀術数が嫌だというのでは、現実の外交交渉から逃げているに過ぎない。
私は、騙された振りをしてでも東京と平壌に連絡事務所の開設し、外交交渉のテーブルに着くべきと思う。北朝鮮が自国に都合の良い情報を発信してくるのを当然のことと受け止め、我が国はその情報の真偽を見極めるだけの確かな情報を収集して分析し、事実に基づき北朝鮮側の嘘を追求しなければならない。それを可能にするには、国家としての情報機関の設置・構築こそが急がれるべきだ。
この産経ニュースの最後は、「(石破首相が)持論に拘泥して手法を誤れば、被害者家族に残された時間の空費にもなりかねない」と結んでいるが、これには同意できない。2002年9月の日朝平壌宣言以降、拉致被害者救出活動の中心的立場に位置しながら、持論に拘泥して手法を誤り拉致問題の解決を遅らせているのは家族会・救う会であり、これからも同じく頑迷な主張を続けるのでは22年間に及ぶ拉致被害者救出活動に費やした時間を空費させてしまうだけだ。新政権に懐疑的な立場であることは理解するが、一刻の猶予もないというのなら、家族会・救う会は騙された振りをしてでも新政権に大人の対応を見せる方が得策だと進言したい。
令和6(2024)年10月4日
救う会徳島 代表 陶久敏郎