※樹目線です。
もうすぐ終わる高校生活。
3年生になってからは受験勉強で色んなイベントどころじゃなかった。
それでも、同棲してる2人が心配で、何かと理由つけて家に遊びに行ってた。たまに大晴も連れて。
でも、秋くらいに遊びに行った時に、家の内装に違和感を感じた。
同棲始めた頃は2人別々の部屋で各々寝床も別れてたのに、模様替えしたんだろう、リビングと寝室に別れていた。
違和感があったのはリビングの壁だ。
カレンダーやポスターの位置が、明らかに不自然なレイアウトだった。
何かを剥がしたような跡が残っていた。
ねーちゃんが隙だらけなのは知っての通りなんだけど、誠也くんも意外と詰めが甘い。
来客中に飲み物がないからって買い出しに行くし、フツーに家主2人が客を置いて出かける。
まあねーちゃんの弟ってことで信用されてるってことなんだろうけど…
俺はもう誠也くんへの信用なんてない。
小島くんとのあの事件以来、誠也くんのことを監視してたから、もうそんな時間なんてチャンスだった。
壁の日焼け跡で何が貼られていたのか推理し、何か物を隠すのにうってつけな場所を探し出して証拠を見つけた。
樹「あった…」
乱雑に紙が押し込まれていた。
慌てて隠したんだろう、場所も割と分かりやすかった。
『男と連絡先は交換しない』
『連絡先の交換は俺の許可を取ってから』
なんだこれ…
誠也くんの裏工作、連絡先のチェックだけかと思ってたけど、もう堂々とし始めたか。
本人に警告ってか。ねーちゃんが何かやらかしたのか??いや、あの人がそんなことするとは思えない。
最近始まったんだろうか…
2人が付き合う前の誠也くんがどんな人だったかなんて、あんまり知らない。
ご飯奢ってもらってた時だってそんなに絡みがあったわけじゃない。
バスケで対決して変な人に見えなかったからいいか、と思ったけど、よくよく考えたら、付き合ってる丈くんとねーちゃんを毎日毎日食堂で見てた人だ。
くそ…見逃してた…
あの頃からフラグは立ってたじゃねーか、束縛系だって。
これは…定期的にここに来る必要があるな。
大学内でも何かあるかもしれない。
もう少し、あと数ヶ月で入試だ。
頑張って同じ大学に行くんだ。
親友の小島くんでさえ裏切ったような人だ。
何をするか分からない、ねーちゃんに危害を加えるようなら即別れさせたい。
俺はメモを写真に撮り同じ場所に戻した。
証拠写真だ。
メモが捨てられたとしてもこれがあれば訴えられる。
いや、訴えるってなんだ、そんなレベルのことじゃないけど…
ショックだ。
軽率に誠也くんを信じてた俺が馬鹿だった。
彼氏と普通に幸せになってほしいだけなのに、俺が叶えられないことを叶えてほしいだけなのに。
末「ただいまぁ」
さ「ごめんねー、留守番頼んじゃって」
樹「え、まあ大丈夫だけど。静かな方が勉強捗るから(笑)」
あくまで平静を装おり接する。
裏で誠也くんの監視をしつつ、人前では仲良さそうに接する。大学入ってからこんな生活が待ってるんだろうか。
IQとか演技力が上がりそうだ…
樹「そうだ、ねえ、ここ教えて。どーいうことか分かんない」
さ「え、なに。どれ??」
末「その問題めっちゃ見たことあるけど解き方忘れた(笑)」
もう少し、あと少し。
キラキラなキャンパスライフは送れるだろうか。
俺の思い描く大学生活送りたい。
こんな男に好き勝手させてたまるか。
見とけ、絶対受かってる、絶対余計なことはさせない。
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そして、長かった受験勉強に終止符がついた。
樹「入試が終わりましたー!!!」
橋淳蓮「「「お疲れー!!!」」」
滑り止めの大学の入試も終わり、みんなで学校に集まってた。
もう自由登校期間ではあるけど、俺の入試が終わったらみんなでバスケしようぜ、と約束していたからだ。
淳弥と蓮くんは推薦で先に大学を決めていた。
大橋は仕事に専念するから進学はしない、と。
1年と2年は学年末テストの時期。
放課後に体育館使わせて貰うために真鳥先生に許可取って、高校生活最後のバスケをしていた。
俺と大橋、淳弥と蓮くんの2チームで対決。
久しぶりに動いてちょっとしんどかったけど、楽しかった。
勉強があったから部活に戻ることは考えてなかったけど、正直高校でもっとバスケしたかった。
事故の後の身体と精神状態を考えたら、辞めるのが正解だったと思う。あんな状態でバスケがやれるとは思ってなかった。
淳「樹の合格発表いつ??」
樹「来週、自己採点したけどまあいけるっしょ、頑張ったし!」
蓮「ほんと2年の時からずっと勉強してたもんねー、凄いよ樹は」
橋「いいなーみんな大学…」
一通り試合を行い、4人並んで休憩を取る。
大橋はただ1人、進学しないのを気にしているようだった。
みんながバラバラになってしまうのが寂しいんだろう…
樹「しょーがねー、ずっと一緒ってわけにはいかねーだろ」
淳「みんなにはみんなの将来があるんだし」
橋「分かってるけど、また1人になってまう…」
大橋の進む芸能界、何かグループでも所属していない限り基本個人戦だ。
学校では俺らが色々支えてたし、一緒にいたから寂しくはなかったんだろうけど、これからは仕事が基本だ。
入学式の日に1人で不安がってた大橋を思い出す。
手術の時も不安な顔してた。
俺が傍にいたからよかったものの、これからはそういう訳にもいかない。
蓮「俺がいるじゃん、役者とモデルでフィールドが違うだけで同じ芸能界じゃん。むしろ違う業界に友達がいるって結構心強くない??少なくとも俺はそう思うよ」
蓮くんがそう言って元気づけてた。
思えば手術の時のお金だって存在にありがとうって大橋に自腹切らせなかったし、蓮くんにとって大橋は大事な存在なんだろう…
橋「ほんま??ありがとう〜、めっちゃ嬉しい…」
蓮「俺もそのうち演技の仕事やろうかな〜、共演したいもん、大橋と。どっちかだけ有名になってテレビのトーク番組とかに呼ばれるようになったらさ、仲のいい芸能人でお互いの名前上げよ??高校の同級生なんですって自慢したい」
橋「あー、それめっちゃ嬉しい!俺も言いたいそれ!!舞台にこだわらずテレビに出られるように頑張る!!」
蓮「俺も、まずはメンズノンノに載るのが目標!お互い頑張ろ」
2人はコツン、と拳をぶつけあってた。
いいなあ、2人はやりたい仕事があって。
充実した人生送れてて羨ましい…
淳「そうだ、みんながバラバラになる前に、教えとかなきゃ」
樹「…なにを??」
淳「ちょっと待って」
淳弥が近くに置いてあった荷物を取りに行き、ケータイと紙とペンを取り出した。
紙を3枚にちぎってそれぞれに何かを書いてた。
淳「はいこれ、俺のLINEのID。
どうせみんな卒業祝いとか進学祝いでスマホ買ってもらうんでしょ??」
そう言ってその紙を渡してきた。
2014年、スマホは普及しだしてる頃だったけど、まだまだ俺らは高校生。
俺はバイトしてる訳でもないし、大橋達は忙しくてそれどころじゃないから、ってみんなまだガラケーを使ってた。
淳弥は誕生日の時に買ってもらったらしい。
みんなより一足先にスマホを使ってた。
淳「みんな身内でスマホの人いない??」
橋「亮太くんはスマホ使ってる。何回か触らせてもらったことはあるよー」
蓮「親はガラケーだね…姉ちゃんが使ってるらしいけど、家出てるからなあ…」
樹「うちもまだみんなガラケーかな…たぶん兄ちゃんとねーちゃんはスマホ使ってるかも」
淳「そっか、じゃあ大橋はある程度分かってるかもね。とりあえず色々説明するね(笑)」
淳弥はそう言ってLINEの機能について話し出した。
まだまだガラケーだった俺たちには無縁の世界だったから、有難い。
淳「LINEっていうアプリでだいたいみんなやり取りするの。ガラケーでいうメール。
メールは送ったら向こうが読んだか読んでないか分からないでしょ??でも、LINEだと、送ったメッセージを相手が読むと既読ってつくの。なかなか便利な機能でしょ?
あ、あとこのIDは『ID検索』っていう検索機能でこの文字列入れると、そのIDの人のアカウントが出てくるのね。それで追加するとその人と友達になれるの。だからこれは俺のLINEのID。ID検索で俺のアカウントを追加して、俺になにか適当にメッセージを送って??それで俺も追加するから。
あとね、メールとの大きな違いが、グループ機能ってのがあって、まあ要はメールの一斉送信みたいなもん。でも、メールは一方通行で一斉送信した人たち全員でメッセージを共有出来ないけど、LINEのグループだとそれが出来るの。集団で連絡とか喋りたい時はこれを使うの。
要は何が言いたいかって、funkyのグループに入って欲しい。招待するからさ。俺は既に北斗くんと今江くんのアカウントも持ってて、funky3人のグループも作ってある。」
ショップ店員のようだった。
説明も分かりやすいし、俺らがやるべきこともよく分かった。
またfunkyみんなで集まろう、そういうことだろう。
淳「そうすれば、みんなで思い出も共有できるし、すぐに連絡取れる。どうせみんな東京にいるんだろうからすぐ会えるよ。」
淳弥はそう言って元々のキツネ顔をもっとキツネっぽく笑ってきた。
大橋だけじゃない、離れたくないのはみんな同じだ。
蓮「さすが淳弥は気が利くね、ありがとう。無くさないでおく」
淳「いえいえ」
ふと横を見ると、大橋が淳弥の優しさで泣きそうになってた。
橋「さすが淳弥や、やることが違う(泣)」
淳「こらこら泣かないの(笑)」
大橋はちょうど真横の俺に泣きついてきた。
淳弥はその隣だけどな、まあいいか(笑)
橋「…あ、そうやった、俺も1個報告あるんやった」
泣きついてたと思ったのに、すぐに顔を上げてきた。
なんだ、報告ってなんだ…
橋「あんな、俺、改名することになってん。芸名になる」
樹「え??」
蓮「意外な報告だね…」
淳「まるっきり違う名前で仕事するの??」
橋「違う、そうやない。」
大橋も自分の荷物から財布を出して名刺を配ってきた。
なんとも手作り感の否めない名刺だ…(笑)
橋「名刺は非公式なんやけど、4月からこうなんねん。」
樹「たけはしかずや??」
橋「そう、みんなも気づくやろ、たけはしのたけは丈くんの丈やで」
蓮「そういや大橋の大に見た目が似てるね(笑)」
橋「せやろ!俺的にええアイディアやと思って!」
淳「しかしなんでまた芸名に…」
橋「まああれや、家庭の事情に繋がんねんけど」
樹「出身地詐称だけじゃ不安になったか」
橋「万が一古河出身ってバレてもええように(笑)まあ大橋で3年活動してもうたからバレる可能性はあるけど…マネージャーさん達と話し合った結果、こうなった。」
たけはし、丈橋か…
しかしなんでまた丈くんの名前から…
橋「funkyが出来たのも、バスケやれてたのも、みんな丈くんのおかげ。丈くんが亡くなってもうて必然的に抜けた、みたいな扱いになったけど、そんなことにはさせたくない。やから、俺が芸名として丈くんのことを残したい。わざと丈の字にしてん、忘れたくなくて。丈くんあってのfunkyやから…」
丈くんの話が出て一気に雰囲気がしんみりした。
みんなの丈くん、みんな大好きだった丈くん。
大橋は丈くんがいた時のことを思い出してるんだろう…涙を流してた。
俺はずっと丈くんのことは考えないようにしてた。
だって、丈くんのことを思い出そうとすると、決まっていつも事故に合った時のことを思い出す。
目の前で吹っ飛ばれた丈くんを、あの時のトラックに轢かれた時の痛みを…
蓮「偉いよ、大橋は。そうやって丈くんのこと忘れないようにって出来るんだもん。」
淳「ほんと、そういうところ、大橋のずるいところ。」
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大橋side
丈くんの話を出してから、樹は下を向いた。
まあ…みんな丈くんのことは大好きやったし、色々辛くて泣き顔を見せたくなくて下を向いたんやと思う。
でも、淳弥の言葉を聞いたくらいから樹に異変が起きた。
少しずつ呼吸が荒くなっていってた。
耳を塞ぐ。そのまま頭を抱え込んだ。
呼吸の音はどんどん大きくなっていってた。
橋「じゅり、どうしたん??大丈夫??」
肩を持って樹のことを揺すると、意識が戻ったのか顔を上げて、俺の方を見た。
樹「…ごめん、取り乱した。」
深呼吸すると、そのまま俺に身体を預けてきた。
蓮「どうしたの…過呼吸気味だったけど…」
蓮くんが心配そうに覗き込んできた。
明らかに様子がおかしい。
樹「ごめん、心配かけた。
…丈くんのことはもう言うな…事故の時のこと思い出しちまうからやめろ…」
それを聞いて、蓮くんも淳弥も納得したようやった。
そうや…樹は、事故の時一緒におったし、さらに丈くんが亡くなる瞬間まで見てる…
トラウマなんやろうな…
樹の前で丈くんの話題は禁止や、な…
橋「…なんかごめんな!芸名になること報告したかっただけやけど、丈くんの話してもうて。」
樹「いや、大橋は悪くない。」
樹はそう言って俺から離れた。
樹「…たまに、丈くんのこと考えるとこうなるんだよ。過呼吸起こす。夢を見ることもある。
トラウマなんだろうな、どうすれば克服出来るんだろ…」
そうやって樹はうつむいた。
そうや、樹はずっと人のために動いてきたような人や。
自分のために何も動いていない、動けないんかな?
苦手なことは苦手なまま、放置してるんやろ、逃げてるんやろ…
かといって俺らがどうこう出来る問題じゃない。
でもどうにかしてあげたい。
でも、どうすれば…
蓮くんと淳弥の顔を見ると、同じことを考えているようで困っていた。
蓮「ねえ、雰囲気しんみりしちゃったし、もう一試合やらない??」
淳「そうだね、今度はペア変えよ!」
蓮「樹、俺と組んで小さいチームを負かせよう(笑)」
橋「ちょっと小さいチームって(笑)」
樹は顔を上げた。
やっぱり大好きなバスケのこととなると人が変わる。
随分と表情が明るくなった。
樹「…やるか!背の高さなら負けねえってな!!(笑)」
そう言って俺らのチームにボールを預けてきた。
樹「小さいから最初のボールはそっちでいいぞー」
橋「なんやもう、バカにしとるやろ!!(笑)」
淳「大橋、小さくたって出来ること証明してやろうぜ!!」
橋「そーやそーや!バカにすんなーー!!!」
そうやって2試合目が始まった。
背が高いって言ったって、樹と蓮くんで10センチくらい差があるくせに!
俺と淳弥と樹の差やって10センチもないくせに!!
淳橋「「小さいチームの逆襲だー!!!!」」
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結局、逆襲とか言ってたけど、俺らのチームの勝ちだった。
そもそも、俺がいる時点で誰も勝てない。
10年のキャリアなめんなよって。
もう外は陽が傾いていた。
夕方だ、そろそろ帰らないと先生に追い出される。
蓮「あー、楽しかった」
樹「久しぶりに動いてすっきりしたー」
淳「むしろ2年バスケやってなかったはずの樹があれだけ動けるのがすごいよ、腕が落ちてない」
橋「左腕怪我してたん?ってくらい動けてた(笑)」
ボールを片付けて帰り支度をする。
淳弥が今日はみんなと離れたくないから調布駅まで行くよ、と言ってきた。
やっぱりみんな寂しいんだなあ…
橋「じゅり一緒に帰ろ〜!」
大橋が俺の左手を取って繋いできた。
いつもそう言ってるくせに、飽きない奴だなあ(笑)
樹「みんなで帰るだろ、いつものことだろ」
橋「そうなんやけど(笑)」
繋いだ手を握り返す。
この手もあとどれぐらい繋いでいられるだろうか…
と、思ったら、
その手をグッと引かれ大橋の方に身体を向けさせられた。
気づいた時には唇に柔らかい感触が。
…え??は????
淳「あらま」
蓮「ついにやったか」
橋「へへ、樹の初キスゲット」
大橋は1回離すと、俺をホールドし動けないように抱きしめてから、また、キスしてきた。
蓮「あらま、樹、顔真っ赤(笑)」
淳「なんで抵抗しないんだか(笑)」
なんでだ、なんで抵抗しないんだ俺。
いつもなら言い返せるのに、なんだろう、驚きと嬉しさと恥ずかしさが一気にきた感じ。感情が追いつかない。
てか、なんでだ、嬉しいってなんだ。
もう一度、今度は頬を包まれ顔を抑えられキスされる。
さすがに抵抗しようとして大橋を押し出すつもりが、大橋が体重を乗せてきたせいで、そのまま押し倒されるように床に転んだ。
俺の上に覆い被さる大橋。
嬉しそうに笑ってる。
橋「ごめん、離れちゃうのが寂しくてつい(笑)」
樹「…バカ、何してんだよ(笑)」
そう言って俺も大橋にお返ししてやった。
男同士なのに何やってんだ、深いキスしてしまった(笑)
2人で笑いあってこの瞬間を共有する。
大丈夫、俺だってお前から離れたりしないよ。
大事な友達だ、親友だ。
でもキスするとは思ってなかったけどな(笑)
隣にいてこうやってバカやってくれる友達なんてそういない。
俺だって大好きだよ、大橋。
淳(まずい、完全に2人の世界だ)
蓮(俺らは先に帰ろう…)
橋「あれ、2人がおらん。」
樹「いいよ、俺らで帰ろう」
僕ら青春中、終わり🙌