こんなタイトルの本を書いたのは、今は亡き、深沢七郎さん。何といっても、磊落で、面白い人物像だったなあ。アメリカのJFKこと、大統領をしていたケネディ。あれが暗殺されたとき、赤飯を炊いて近所にも配ったなんてエピソードまであった。『楢山節考』なんて、すごい小説も書いた。とにかく、少し桁の外れたすごい人だと思っていた。
そもそも、武田泰淳や三島由紀夫といった、そうそうたるところに絶賛されて世の耳目を集め、文壇に特異な地位を築いた人だろう(やはり、三島先生も眼が高い)。そして、後進からは「オヤカタ」なんて愛称で呼ばれたりした。
『風流夢譚』では、たいそうな筆禍も起こした。昭和30年代という、もう遠い昔のことだろう。皇室を茶化したような記述が右翼の逆鱗に触れ、版元であった中央公論社の社長宅が襲撃され、死者までを出すに至った。
オヤカタ、西行が好きで、額田王が好きで、井原西鶴が大好き。与謝野晶子も白石かずこ も、みなよいと。さらに、現代人では、その白石の他に小田実を賞賛。その通則性が他者に分かるか分からぬかは問題外なのだろう。でも、柿本人麻呂なんてぜんぜんダメだし、芭蕉の俳句なんかも興味なさそうだ。
そんなオヤカタ、自らの“後援者”三島先生まで、みごとなまでに腐してしまう。あれは少年文学だ。四十五の大人が書くものじゃない。当人も頭がいいから、その限界に絶望して政治に走っちゃったんだろう、なんて。
悩みなんて人生のアクセサリーだとうそぶくオヤカタ、「動物の中で人間が一番バカで悪いヤツ」と言ってのける。子孫をつくるのはいけないこと。日本の人口が増えたほうがよいなんて、悪党が言うセリフ。人に働かせて、自分はのうのうと暮らそうという下心で、子ども増やせば奨励金、なんていうのも労働力を増やすための魂胆だと。
スポーツなんて悪いもんだとも言っている。人におだてられて肉体を酷使する犠牲者がスポーツマンだと。一位だ、二位だと、やってる当人も権威にあこがれてそんな無理を重ねている。本当によくないことだと。さりとて、ボクサーのモハメッド・アリはスポーツマンにあらず、インテリジェンスのあるショーマンだとして、ずいぶん贔屓にしたらしい。
――人生とは、何をしに生まれてきたのかなんてわからなくていい。三千年前に悟りを開いたお釈迦様は、〝それは、わからない〟と悟ったから悟りを開いたんだね。
此の世は動いている。日や月が動いているのだから人の生も人の心の移り変わりも動いている。人間も芋虫もその動きの中に生まれてきて死んでいくということだね。
まあ、暇をつぶしながら、死ぬまではボーッと生きている。それがオレの人生の道、世渡り術というものだよ。――
こんな飄々としたことを言って、オヤカタ、もうこの世にいない。未発表のこの遺稿集を本棚に見つけたら、なんだか、その名が懐かしくなってきた。
- 深沢 七郎
- 生きているのはひまつぶし 深沢七郎未発表作品集