第二次大戦後の昭和20年代、日本国内で外国人により日本国民が拉致・監禁され、拷問されたり、スパイになるよう強要されるような事件が続発した。その外国とは、アメリカ合衆国。


そのうち、同国の対外工作機関の一つ「キャノン機関」が起こした、「佐々木克己事件」(昭和25=1950年)、「鹿地亘事件」(同26=1951年)のように、発覚後、米国の犯行であることが証明されたものもいくつかあるが、それらは、“猿も木から落ちる”“上手の手から水が漏れる”の謂いで、全くヘマの部類である。(佐々木事件の被害者・佐々木氏はその後自殺、鹿地事件は発覚後に日本の国会でも取り上げられた)。


侵略国の世界チャンピオンであるアメリカ帝国ともなると、さすがに優秀な謀略機関や工作員も多数擁しており、そう簡単には尻尾をつかませるものではない。多くの事件は、早くから米国の関与が客観的に疑われ、米国の影が常にチラつきながら、あるときは政治的弾圧により、あるときは巧みな隠蔽工作により、永遠に疑惑の闇に閉ざされている。


本書で主として取り扱うのは、表題のとおり、その中の代表的なものである「下山事件」だが、ほぼ同時期に相次いで発生した「三鷹事件」「松川事件」にも言及している。これらは、みな米国の関与が濃厚に疑われた事件だが、いずれも真実は闇に閉ざされたままで「戦後3大ミステリー」と呼ばれる(いずれも同じ年、昭和24年の7月から8月の2ヵ月間に3件起こっている)。


この3つの事件を並べて検討してみると、ますます、背景や構造の類似性が明らかになってくるので興味深い。事件の目撃者や関係者は、次々と不審の死を遂げる。そして、捜査の過程に、不明朗な圧力が背後からかかる。捜査の記録にも大きな捏造が行われている。


「亜細亜産業」なる企業、それに連なる米国謀略機関の人脈、国内保守反動勢力の要人たち、さまざまな名が見え隠れする。


本書の著者・森達也氏は映像作家であるが、祖父が実際に下山事件に関与したと告白する人物との会見から取材活動がスタートする。因みに、その人物を森氏に紹介したのは、映画監督の井筒和幸氏だという。


森 達也
下山事件