城内ではウィルヘルムの戴冠式が行われる中、アルテミスはノアに呼ばれて森へ行くと、人間の姿をしたノアが待っていた。役目を終えたノアは元の世界へ帰ると言う。離れたくなかったアルテミスだったが、この世界での役割を全うしたらまた会えると言われて、悲しみをこらえながらお別れすることにした。

そこからの続きです😊

 

 

「ノア…行っちゃったんだね…」

アルテミスの目から涙があふれ、視界がぼやけていく。

“ノアがいなければきっと全てを投げ出して、あのままずっとイースで独りぼっちだったと思う。ノアのおかげで私は変われた…だから、今の私ならもしかすると…”

アルテミスは自分が誰とも打ち解けないままの状態でイースを去っていたことに気づいた。

あの頃の自分は今の自分とは全く違う。

“私はー”

その時目の前が目にまぶしい光がパッと現れ、アルテミスは思わず片手で目を覆った。

「⁈」

「アルテミス、久しぶりだな。わるい、ちょっと光をおさえるから待ってな。」

「光の妖精…!」

アルテミスがうっすら目を開けると、そこには久しぶりにみる光の妖精がまるで静止しているかのように浮かんだまま、じっとアルテミスの顔を笑顔で見ている。

 

「オレがけしかけたとは言え、この不便な世界で辛い思いをしながらも、よくここまで頑張ってくれた。世界を救ってくれて、本当にありがとう。」

光の妖精は深々と一礼した。

「あれは私だけの力では…」

戸惑うアルテミスに

「アルテミス、えらかったね。よくがんばったね。」

周りにいる妖精たちの、自分に対する称賛と敬意がたくさん心に伝わってくる。

“そう…だよね。私は、よくがんばったよね。”

 

アルテミスはレダに来てからの色んな事を思い出して胸がいっぱいになり、目頭が熱くなった。臆病で逃げてばかりだったが自分がこれほど変われたのは、良い経験も辛い経験もたくさんしたからこそだ。

「私のほうこそ…背中を押してくれて、ありがとうね。」

今なら一歩踏み出す勇気をくれた光の妖精に、心から感謝できる。

「その時は辛くて、『なんでこんな目に!』と絶望することでも、必ず光を見出して、後になってからそれが全て自分のためだったと分かる時がくるものさ。」

「うん、ほんとそうだね。」

アルテミスは笑みを浮かべている。

 

「さあ、オレもそろそろ行かなきゃな。感謝の印におまえが今行きたい場所に送り届けてやるよ。どこに行きたい?ニーナが待つスティルウェルの家か?」

「……」

アルテミスはうつむいて少し考えたあと顔を上げ、輝く目で光の妖精を見た。

「イースへ。私の生まれ育ったあの家に帰りたい。」

「それでいいんだな?」

「うん。私、やり直したい。今の私なら…本当の私を理解してもらう努力をしたら、もしかしてイースの村の人々との関係も変わっていくんじゃないかなって…。試してみたいの。新しい私を。」

アルテミスの凛とした表情を見て、光の妖精はふっと笑った。

「初めて会った時とは、ほんと別人だぜ。」

 

 

「…いい風。」

気がつくとアルテミスは心地の良い風に吹かれながら、見覚えのある丘の上に立っていた。

「ここはー」

遠足でよく来たあの丘。

ここからは村が一望でき、その中に生まれ育った家も遠くに見えている。

アルテミスは懐かしさで胸がいっぱいなり、はやる気持ちでその場を駆け出し家の方へ向かっていた。

 

“あれ?あの日は雨で確か洗濯物は干してなかった気が…”

アルテミスは家を出た日と全く変わりなく建っている家を見て安心したものの、庭に洗濯物が干してあらのが目に入り、干しっぱなしで家を出てしまったのかと記憶の糸をたぐっている。

“やだわ、ずっと野ざらしだったのかな?洗い直さなきゃ。それにしてはきれいね…⁇”

アルテミスが干してある洗濯物を触って確かめていると

「大丈夫よ、それは今朝干したの。」

背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

“えっ…この声…!”

「おかえりなさい、アルテミス。」

「おかあ…さん!」

振り返ると会いたくて仕方のなかった母親が、以前と変わりのない優しい笑顔で立っていた。

「探したんだよ…!」

アルテミスと母親はお互い強く抱きしめ合い

「よくがんばったね。」

「お母さん!」

優しく話しかけてくれる母親の声を聞きながら、アルテミスは久々に得た安心感と優しい母の愛情に、子どものように大声で泣きじゃくった。

 

落ち着いてからよく話を聞いてみると、母親は漁師に助けられ、しばらくその家族にお世話になっていたそうだ。船から投げ出された衝撃で岩に頭をぶつけて数ヶ月間記憶がなかったところ、ダリウスの兵士が探し出してくれて娘の話を聞くうちに徐々に記憶が戻り、最近この家に帰って来たそうだ。

母親は、アルテミスの近況について大まかな話は兵士から聞いていたが、本人の口からレダに渡ってからの辛かったことや嬉しかったこと、王家と関わった信じられないようなたくさんの長い長い話を聞いて、娘の大きな成長に少しさみしい気持ちはしたが、やはり親として嬉しく思えた。

 

 

翌日 さっそくアルテミスは学校へ向かった。

「お、おはようございます!」

人とすれ違うたびに勇気を出して挨拶をし、今まで素通りだった村人たちも戸惑いながらも挨拶を返してくれたり、驚きの表情のままスルーされたりと、反応はさまざまだ。

“大丈夫。毎日続けたら、きっと打ち解けられる。あっ!”

ふと前を見ると学級委員のエレナがひとりで歩いている。

『いなくなればいい』

レダに渡る前にエレナに言われて傷ついた心がよみがえり、胸が痛くて思わず息をひそめて歩みを遅くしたアルテミスだった。

だがアルテミスは首にかけてあるダリウスからもらった天使のペンダントをギュッと握り締めると

“王子、見守ってね!”

大きく深呼吸し、エレナに近づくき

「…エレナ、おはよう!」

背後から大きな声で挨拶をした。

「!!」

エレナは振り返り、アルテミスの顔を見て驚き、目を見開いている。

「えっと、ちょっと旅に出てて…その…ただいま。」

アルテミスがしどろもどろでなんとか笑顔を作ると、エレナはその直後に大声で泣き出してしまった。

「え…あの…」

アルテミスは戸惑いながらエレナの背中をさすっている。

「私…あなたに酷いこと、言ったでしょ?あんなこと言って次の日からあなたが本当にいなくなっちゃったから、私…私…」

エレナは泣きじゃくりながらアルテミスの両手をギュッと握り締めた。

「酷いこと言って、ごめんなさい!」

 

“ああそうかー”

酷いことを言った人だって、後悔で苦しんでる場合もあるのだ。

あのまま傷つけられた恐怖心から距離を置いて、心を近づける努力をしなければ、一生分かり合えなかったかもしれない。

相手を許し理解しようと思えたら、きっと全てが変わっていくのだろう。

「こっちこそ、心配かけてごめんね。」

「ねえ、今までどうしてたの?あなた感じが変わったよね。何があったのか、よかったら聞かせてくれる?」

「うん、えーっと、どこから話そうかな…」

二人はなんのわだかまりもなく、まるで昔からの友だちのように笑顔を浮かべ合いながら

楽しそうに学校へ向かって行った。

 

 

続きはまた今度👋😄

次で最終回です✨