近隣の村々にアルテミスが不審人物だと噂が立ち、スティルウェルの家を出て行こうとしていたアルテミスだったが、スティルウェルがアルテミスを連れて村々のみんなに紹介して回り、みんなの誤解も解けていき、アルテミスも少しずつ人と接することに慣れていく。

そこからの続きです😊

 

 

“アルテミスの使命?”

口をつぐんだスティルウェルを不思議に見ていたクラウゼビッツの背後から

「アルテミスが現れたか…」

と言う声が聞こえて振り返ると、そこにはこの村に住む長老が、杖を片手に立っていた。

「長老!お久しぶりです。」

黙って立っていても威厳があるこの老人は、この辺一帯の村々のまとめ役で、かなりの歳なので滅多に外に出ることはないのだが、何か問題が起きた時や大切なお客様が来た時などは、たまに姿を現すことがある。

スティルウェルは久しぶりに見る長老が、懐かしそうにじっとアルテミスを見ていることに

気がついた。

 

「お主はもう気づいておるんだろう?」

長老はスティルウェルの顔を見た。

スティルウェルは黙ってうなずいたが、クラウゼビッツにはさっぱり分からない。

「王家に代々保管されている一枚の絵を知っておるか?あれは50年に一度だけ一般公開される特別な絵だ。わしも若い頃に一度だけ見たことがある。」

「この世界を創ったと言われる女神アルテミスの絵のことですか?」

クラウゼビッツがたずねた。

「ああ。本当に、よく似ておる。」

長老は子どもたちに囲まれて身動きが取れずにあたふたしているアルテミスの顔をじっと

みつめている。

 

「この世界に崩壊の危機がおとずれる時、女神が誕生し、世界を救う。それが王家の言い伝えだ。」

「それが、彼女だと⁈」

“人とうまくしゃべれない極度のあがり症のあの子が⁈”

クラウゼビッツは驚いてアルテミスを見た。

「彼女は重い宿命を背負っておる。」

長老は悲しそうにアルテミスを見ている。

“母親を失ってまだ、この先過酷なことが…?”

スティルウェルは辛そうな表情でぐっと拳を握りしめた。

 

 

数日が過ぎ、挨拶回りのおかげでアルテミスもずいぶん村人たちに溶け込んできた。

相変わらずの小声だが、語尾が聞き取れるぐらいはっきりと話せるようになった。

すれ違う人にも緊張せずに挨拶できる。

子どもたちに大人気のアルテミスは、集落に行くたびに子どもたちに囲まれて、最近では

自然に笑顔を出せるようになってきた。

 

ただ困ったことにスティルウェルと一緒にいる時は、やっかみからか同僚の兵士たちに

「いつ結婚するんだ?」

「ほんとにスティルウェルでいいのか?」

と、たまにからかわれる。

「あはは、うらやましいのか?」

同僚のやっかみに慣れてるスティルウェルは笑って適当に返すのだが、色恋沙汰に不慣れなアルテミスはそのつど真っ赤になって否定するのだった。

 

「よお、アルテミス」

「あ、クラウゼビッツさん。」

初めは怖く感じたクラウゼビッツとも、ふつうに話せるようになった。

とは言っても彼は最初から何も変わっていない。さわやかでサッパリしていて、二人をからかわない同僚は彼ぐらいだろう。

スティルウェルとは幼なじみで、運動神経の良いクラウゼビッツが兵士にスカウトされ、スティルウェルを誘って一緒に入隊したらしい。

二人は武術の腕をめきめきとのばし、あっという間に二人一緒に近衛兵になった。

「クラウゼビッツ、卵のお返しに野菜持って来た。ピーマンちゃんと食べろよ。」

「なにを〜⁈おまえこそ生のトマト食えねえだろうが。」

“ふふ、仲の良い兄弟みたい…”

二人が楽しそうに話すのを、アルテミスは毎回微笑ましく思う。

 

「ところで君のお母さんのことだが、いま国中の病院にそれらしい人物がいないか各地に住む兵士たちに聞いて回ってもらっている。しばらくの間、待っててくれよな。」

クラウゼビッツは明るい笑顔を見せた。

「え…」

“イースの田舎に住む一国民のために、兵士たちが動いてくれるなんて…!”

アルテミスは驚きと感動で胸がいっぱいになった。

広大なレダ島内を探し回るのに、数年はかかるだろうと覚悟していたのだが、各地から城に来る兵士たちのネットワークを使えば、思うよりも早く情報が集まるかもしれない。

「ありがとう…」

アルテミスは深い感謝の意を込めて一礼した。

 

「そうか、その手があったか。でもよく国内の兵士を動かせたな。」

スティルウェルはクラウゼビッツを見た。一介の近衛兵にできることではない。

クラウゼビッツはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに

「たまたまダリウス王子と面会する機会があったのさ。その時相談したんだ。つまり王子の勅令ってわけ。」

と言い自慢げにニヤッと笑った。

「えっ、王子様が⁈」

“会ったこともない田舎から出てきたただの庶民のために、王族の王子が動いてくれるなんて!”

アルテミスは驚きが隠せない。

「ダリウス王子はそういうお優しい方なんだ。国民一人ひとりのことを常に考えてくれている。ひ弱だと反感を持つヤツらもいるけれど、オレもクラウゼビッツも王子を尊敬している。オレたちは自信を持ってダリウス王子について行きたいと思ってる。」

 

アルテミスは以前スティルウェルに教えてもらった『王家の現状』を思い出した。

“そういえば兄弟で派閥があるって言ってたっけ。聞いてる限り、ダリウス王子って好感が持てる良い人そうだけどな…光の妖精は王位継承問題が起こって世界が危険になるなんて言ってたけど、ほんとにそうなるのかなぁ?”

アルテミスは、ダリウス王子の人柄と慕われぶりを聞く限り、全く危機感を覚えることができない。

“ まあ王家の現状がどうであれ、庶民の私が関われるような方々ではないもの。やっぱり

何も起こらないのかもしれない…”

アルテミスは心が軽くなった気がした。

 

だがこの先、結局王家と関わることになっていくのだが…

 

 

続きはまた今度〜👋😄