行方不明の母を探すため、しばらくスティルウェルの家でお世話になることになったアルテミスは、ある時森へ散歩に行った。森の中にはいくつか集落があるらしく途中で出会った人々に、あいさつされたり話しかけられたりしたのだが、アルテミスは怖くなって無言で逃げ出してしまう。ノアに励まされ、次こそはあいさつしてみようと思ったのだが…
そこからの続きです😊
数日経ち、アルテミスはここでの生活にも少し慣れてきた。
だがこれといって進展もなく、レダに初めて到着した日からずっと母の行方は分からないままだ。
「ごめんな、なかなか探しに行けなくて。君のお母さんを探す協力は必ずする。少しだけ待っていてほしい。」
野菜を収穫しながらスティルウェルが申し訳なさそうにアルテミスに言った。
スティルウェルは朝からすでに牛の世話や馬の世話をしてバタバタと忙しくしている。
「あの…落ち着いてからで、大丈夫です…」
アルテミスもスティルウェルの横で一生懸命スティルウェルから受け取った野菜をカゴにきれいに並べている。
今の時期ちょうど野菜や果物が実り、収穫で忙しく、スティルウェルの母も野菜や果物を市場に売りに行くため早朝から出かけていた。
さらにスティルウェルの場合、収穫以外にも牛や馬の世話やお城での近衛兵の仕事や訓練など日々忙しく、アルテミスはそんな状況を理解しているので母を早く探したい気持ちはあるが、お世話になっている分、少しでもできることがあればお手伝いしようと頑張っている。
スティルウェルは今しがた収穫したベリーを少し入れ物に入れて、アルテミスに手渡した。
「食べてみ。うちのは美味しいから。ちょっと休憩。」
二人は庭のベンチに座って一息ついた。
“わぁ〜、ほんとに美味しい。あなたたちも食べる?”
アルテミスがベリーを手のひらに乗せると近くの木にとまっていた小鳥たちが、パタパタとアルテミスの肩や腕にとまった。
そして順番にちょんちょんと手のひらまで歩いて行き、ベリーをつついて食べ始めた。
ノアもアルテミスの横に寄り添って美味しそうにベリーを食べている。
それを見ていたスティルウェルが、同じように手のひらにベリーを乗せて、じっと鳥がくるのを待っていたが、鳥たちはアルテミスの方にしかいかない。
「なんだ、やっぱりオレじゃダメか。」
スティルウェルは残念そうな顔をしノアの頭を撫でながら、アルテミスと小鳥たちの様子をうらやましそうに眺めていた。
「それにしても君は不思議だよな。色んな動物がなつく。野生の動物までも。まるで心が通ってるみたいだ。」
「……………」
動物と話せます、とはとても言えず、アルテミスは困った顔をした。
「不思議といえばノアも。猫なのに鳥に目もくれない。やけに落ち着いてるし…」
スティルウェルがノアの顔をじっとのぞここんでいる。
ノアとは出会ってまだ日が浅いが、アルテミスから見ても不思議な猫に見える。
“ノアは私を守護する者って言ってたっけ…。そういえば私、これからどうやって世界を救えばいいんだろう??”
成り行きでここに世話になりここから母を探す流れになっているが、光の妖精に言わせると
真の目的は、『世界を救うこと』なのだ。
“さっぱり分かんない…”
アルテミスは途方に暮れてぼんやりと遠くを見た。視線の先に、小さくお城がみえている。
“そういえば私、王家について何にも知らない…あ、近衛兵なら詳しいよね…”
アルテミスはスティルウェルの方をチラッと見た。
そして勇気を出して聞いてみることにした。
「あの…、今の王家はどんな状態なんですか?」
「え⁈」
最近少し慣れてきたのかアルテミスの会話の語尾が小声にならなくなったため、アルテミスの突然の真面目な質問がはっきりと聞こえて、スティルウェルは少し驚いてアルテミスの顔を見た。
「やはり地方にも噂が広まってるのか?今の状況にレダの人間はみんな不安を感じてる。」
“噂⁇”
世間にうといアルテミスにはなんのことだかよく分からない。
「あの、私本当に何も知らなくて…。よければ詳しく教えてください。」
か細い声だがスティルウェルにはしっかり意思表示ができるようになってきた。
「分かった。じゃあ分かりやすく言うと、今の王には二人の子供がいる。長男は先妻の子で
次男は今の王妃の子だ。今の王妃は次男である自分の子を次の王にしたくて、色々裏で動いてるって噂が流れてる。」
「でも、王家では長男があとを継ぐって…」
「まあ確かに代々そうしてきてるんだが、例外もあるんだ。長男が王にふさわしくない場合は、王の判断で次男を王にした例がある。」
「上の王子様に、何か問題でも?…」
アルテミスの質問にスティルウェルは言いにくそうな顔で答えた。
「上の王子は虫も殺せないほどの優しい方なんだ。動物を殺したくないという理由で、王家の開く狩の大会にも一度も参加したことがないほど温和でお優しい。
中には『王は強くなくては民衆を束ねることはできない』と考える兵士や大臣たちがいて、長男派と次男派に分かれてしまってる。王が亡くなられた後、レダはどうなってしまうのかと、みんな不安に感じてるんだ。」
「なるほど…」
“光の妖精が言ってたことは、このことだったのね。”
このレダに起こりそうだという戦争の理由を、アルテミスはようやく理解したのだった。
翌日、いつものように朝からみんな忙しく働いていた。
スティルウェルは牛舎の中の掃除をし、母は市に野菜を売りに行き、アルテミスは畑の草引きをしていた。
本当は森の中を散歩して美しい妖精や精霊たちを眺めていたいのだが、この前みたいにまた
知らない人たちにあいさつされたら、あいさつを返す勇気がない。
“ノアが励ましてくれて、頑張ってあいさつするって決めたのに…。やっぱりダメだな、私…”
アルテミスは気持ちを沈ませながら、黙々と草を抜いている。
「⁈」
その時、人の気配を感じふと見ると、見知らぬ男が門を抜けて敷地に入りこみ、真っ直ぐアルテミスの方に向かって来る。
“だ、誰⁈”
アルテミスは怖くて体がかたまり、心臓をバクバクさせながら動けず立ち尽くしている。
男は近くまで来るとアルテミスを見てニコッと笑った。
「よお。みんなが森で会ったってのは、君のことかい?」
“えっ⁈”
続きはまた今度〜👋😄