光は当たり前のようにこの世界にさし、ありとあらゆるものに命を吹き込んでいる。

キラキラと光るベールをまとって、僕とこころはどんどん進む。


こころのザラザラとした皮膚を手で確かめながら僕は聞いた。



「ここはとても広くて明るくて気持ちがいいけど、なんていうところなんだい?」



こころはスピードをおとさず答える。


「ここは海さ。生命の源さ」


「う み」


僕はつぶやいた。


「これから僕がいくところはどんな所なんだい?僕はどうしてもそこにいかなきゃいけないの?」



「お前がこれから行くところはどんな所かは俺は知らない。ただ、お前が始まるだけだ。そしてお前はそこに行かなくてはいけないし、俺はお前をそこに連れていかなくてはいけない」

こころはぶつきらぼうにこたえる。


上からさしてくる光が少し色みを変える。黄金色から橙色に。僕のもといた世界のように温かみのある色だ。

僕はもといた狭いけれども温かく心地のよい世界を思い出す。絶対的な安心感。何も考えていなかった。でも、ここは優しいけれども、絶対的な安心感ではない。何かが潜んでいるような、あらがうことのできない何か危険なことが待っているような、そんな感じ。


その時、僕たちの動きが変わった。何か目に見えない強い力でひっぱられるようだ。

こころは長い尾を激しくふり、その強い力に対抗する。

僕の手がこころから離れた。僕の体は僕の意思とは関係なく、グルグルと振り回される。

ゴ~~ッと今まで聞いたことのない音が耳に響く。

こころから引き離された僕は、回転しながら岩にぶつかって止まった。

岩にぶつかったところが射すような感じがして「イタイ」。そこから赤いものがヒュルヒュルと、いやらしいうつぼのようにでてきた。


「大丈夫か?」

こころが大きな体を滑らすようにやってきた。

僕の体からでてきた赤いものをみて、こころのまん丸とした真っ黒い目が、一瞬真っ白くなった。

僕はなんだかゾッとする。優しかったこころがすごく恐ろしいものに感じたが、すぐにこころの目は元のまん丸で真っ黒い目にかわった。


「しっかりつかまっておけ。潮は急に変わる」

こころは僕の目を見ないように体をグルリと回し、背中をむける。

僕はさっきのこころの白い目を思い出しドキドキしながらも彼の背につかまる。


そしてゆっくりこころは進んだ。


「ねえ、こころ。さっきどうして白い目になったんだ?」

僕は思いきって聞いてみた。こころは少し考えてから答えた。


「本能だ」


「本能?」


「そうだ俺たちには本能がある。それは生きていく上で欠かせないものだ。例えばさっきの俺の目のことだが・・・」


こころがスピードをあげた。僕は振り落とされないようにしっかりつかまる。


「俺は生きていくために他の生き物を食べなければいけない。そして獲物をとらえるときには目を守るためにひっくりかえるのさ。ただそれだけのことだ」


こころは少し言いにくそうに、でも冗談のように言った。


「じゃぁ、さっき僕のこと獲物にみえたんだね」

僕も冗談ぽくいうと、こころは「ハハハ」と笑った。


「お前も始まったら本能に従って生きろ。自分を活かすのも殺すのも本能だ。たとえそれで死んだとしてもそれは本望だ」


僕にはいまいちこころの言っていることがわからなかった。


「本能はどうすればわかるの?」


「五感をとぎすませるんだ。周りに気をとられるな。そうすれば自然と体は動いてわかる」


「ふうん」


僕はわかったようなわからないような返事をして、こころの頭の先をみた。

傷だらけのとんがった先っぽは、きっと彼が本能に従って生きてきた証だと思った。


「こころ、さっきは助けにきてくれてありがとう。それも本能なの?」



「・・・・・・さあてな」



掴んだこころの背中が温かく感じた。



しばらく進むと、潮の流れが止まったかのように穏やかになった。


「もうすぐだ」


こころは、少し寂しそうに言った。