ぶっ飛び沖縄‼︎

ぶっ飛び沖縄‼︎

突然沖縄に引っ越してきました。
楽しいこと、不思議なこと大好きです。


シーズンじゃないよ。
おまけ、という意味の
シーブン。

那覇市のガーブ川。
湿地という意味のガーブーから
付けられた名前から
昔は一帯が湿地帯だったと分かる。

ガーブ川は、牧志や寄宮の市街地の
中心を流れていたんだけど
今はほとんどコンクリートで蓋をされた
暗渠 ( あんきょ ) になり
ほぼ下水道扱いになっている。

かつて戦後には
ここには水上販売の店が
ずらっと並んでいた。

そこで商売をする
たくさんのオバアたちは
自分から買ってくれた客へ
シーブンと言って
小さな手のひらに掴んだ
何らかの " おまけ " を
あげていたんだと
上地ヨシコさんは話す。

したたかな商売人たちの
リピーターを作るワザ
だったと思う。

私たちって
ちょっとしたおまけや
アイスバーの当たりくらいの
ホンのちょっとの
ラッキーなことで
気分が変わるじゃない?

そういうのって
見過ごしがちだけど
大事だと思うのよ。


上地ヨシコさんは

糸満市生まれ。


かたぶいの雨を見上げながら

子どもの頃のことを

話してくれた。


戦争孤児だった

政勝という9歳の男の子は

住まいは分からなかったけれど

近隣の店の手伝いをしては

手間賃をもらって

暮らしていたらしい。


ウワサによると

住まいは沖縄ではガマと呼ばれる洞穴で

川に入って水を浴びて

日々の汗や汚れを落とす。


ふだんは

ゴミをあさったり

魚や貝を採って食べていたけれど

手間賃を貯めると

ヨシコさんの両親が営む魚屋に

やって来た。


沖縄って

魚屋が天ぷらを売るのよ。


礼儀正しい将勝さんは

キチンと挨拶してから店に入り

必ず魚の天ぷらを買って

うまそうに食べる。

ヨシコさんは両親の目を盗んで

手伝うフリをしながら

魚やイカの天ぷらを

こっそり政勝さんにあげたという。


すると

大きな瞳をキラキラさせて

胸の前で両手を合わせ

いっぺーにふぇーでーびる 

( いっぱい ありがとうございます )

と言った。


子ども心に

生まれ育ちのいい子だろうと

思っていた。



そのうち

荷車を押す仕事を見つけて

働くことになったと

ヨシコさんへ話しに来た。


目利き揃いの

サバニ職人を抱える大城親方が

宮崎県に買い付けに行って

すらっとして素性のいい

宮崎産の杉を選んで来た。


それを運ぶための荷車を

引いたり押したりする

人夫として雇われた、と

うれしそうに言っていた。


サバニという

沖縄独特の丸木舟は

シンプルだけど軽くて丈夫。


濡れると乾燥させるのに手間がかかる。

だから雨が降ったら休めるから

楽な仕事なんだとさらに笑う。

ずっーっと働き通しで

その日暮らしの政勝さんにとって

雨が降るのは

どんなに楽しみだったことだろう。


照りつける太陽の下

大人たちに混ざって働く。

叩かれ怒鳴られ半人前扱いの

まだ幼さの残っている横顔。


親に養ってもらう年齢なのに

生きるためだけに働く。

怒鳴り、叩く大人たちは

父親くらいの人なのに。


大の男がやっと押せるような

重い荷車を9歳の子どもが

精一杯のチカラを出して押す。


そのうち

魚の天ぷらを2個買うようになった頃に

将勝さんは足に怪我を負った。

赤黒く腫れた足を引きずりながら

怒鳴られ叩かれながらも

精一杯に荷車を押していく。


最後に将勝さんを見かけた時

その食いしばった口元には

血が滲んでいた。


将勝さんは
それきり姿を見せなくなった。
嬉しそうな顔をして
かたぶいの雨に濡れながら
ヨシコさんへ
手を振っていた男の子。

将勝さんは
それきり姿を見せなくなった。
どうなったのかを知る人は
いなかったらしい。


大人たちが

もうちょっと

シーブンしてくれて

将勝さんを養ってくれたら

よかったんだけどね。


子どもだった自分は

何も言えなかった。

今でも、かたぶいが降ると

思い出すんだよ。

と、そう言って

ため息をついた。


旧盆の前日に連絡が来て

ウンケーじゅーしーを作ったから

取りにきなさい!って。

ありがたく山盛り頂いた。


その時

話してくれたんだよ。

かたぶいの雨だから

少し雨宿りしなさい、と言いながら

コーヒーを出して下さった。


ヨシコさんは

首里生まれの男性と結婚した。

言葉遣いやしきたりや年中行事

首里の人間としての

ありとあらゆる教養を

姑から叩き込まれたから

苦労の連続だったらしい。


いま思うと

あれは初恋だったのかねぇ

と、遠い目をしていた。


かたぶい、とは

沖縄の、にわか雨のこと。

道からコッチが降っていて

アッチは降っていない

そんな雨のこと。


初恋も

かたぶいの雨みたいな

ものかもしれないなぁ。


人生の出来事って

かたぶいの雨なのかな?

そう考えてみると

ちょとだけラクチンになるよ。