72,あなたはだれ?その1

 

出来上がった座敷は新しい畳の良い匂いがして気持ち良かった、しかしとても嫌な事が・・・私の部屋がまだ無いので寝る時にはそこに継父の布団と私の布団が敷かれ、すぐ隣の部屋に襖を隔て継母の布団を敷く形だ。普通は私では無く妻である継母が夫の隣で私が隣の部屋だろう!!私は毎日並んで寝るのが気持ち悪くて怖かった、別に何かされる事は無かったが夜中によく吐いていて継母に怒鳴られ叱られていた。この新しい座敷には観音開きの仏壇入れがあり、その中に仏壇とは言えない程の小さな、小さな観音開きの仏壇もどきの箱に継母の死産した嬰児の小さな位牌が入っていた。お盆以外は閉めっぱなしで掃除などしたことが無い、きっと見たくないのだろう、この夫婦には信仰心など毛程も無く供養するという行為、作法も経験が無いから全く分からないようだ。

なぜ子供の私にその事が分かったのか、それは生家での毎日の儀式とも言える行為があった、毎朝親族全員が神仏に手を合わせ礼拝してから朝食を頂いている行為を見て、私も一緒に真似をして手を合わせていた・・・このような行為は私がこの家に来てから一度も見たことが無い。この夫婦が私をもらう為の絶対条件が生母の宗教に入信することだったが、信仰心の意味も文字も分からないような夫婦なのに何より毎月寄付金まで払わなければならない、私を手に入れた途端すぐに脱会した。断りなく脱会したので毎日、毎日、夜になると生母の部下なのか、数人の信者が押しかけて大声で長い時間抗議していた。

今更あとの祭りだ!!元々信仰心が無いのに継母の宗教嫌いと神仏嫌いはこの嫌な経験の影響もある、きっとこの信者達から相当に罵られ、脅されて頭に血が上ったと思う。脱会しているのに嬰児の位牌が入っている黒い箱の奥に、この宗教の教理が書かれている紙が貼りつけられている。この宗教ではこの紙切れを「御本尊」に見立て信者に高いお金で売りつける、だから捨てるのが勿体無かったのだ。ある嵐の晩、随分と風の音がうるさくて夜中に目が覚めた、夜中に目が覚めるなど吐く時以外はないが、何だか部屋全体が霧のように白っぽい不気味な気配だ。視線を感じ、ふと足元を見ると高さ130㎝のサイドボードの左側に

50㎝前後の白いモノがモヤ~と立っている、一体アレは何だろう?