64,怨みを買う商売

生母はひたすらお金を貯め込むだけで、お金に関してはまるで無知だったのだ。二手に別れている道選びに曇りの無い透明な心眼で選んでいたら全く違う人生の道が開けていただろうし、生母は人を信じないから人の話も聞かない。

お金が膨らむように慢心も膨らみ傲慢な思考で知恵も湧かなかったのか。

生母の商いの一つに金貸し業があったが、これが正に災いの元凶で命取りの大きな要因だったと思う。生母が金貸しをしていたのは再婚相手も誰にも知られていない闇金業だった。闇金・・・確かに今!お金が必要な人間にとってこれほど有難い話は無い、面倒な手続きをしなくても担保を控えた証文に署名捺印だけで「ハイどうぞ!」と即金で「好きなだけ貸して貰える」のだから。

借り手は簡単に思いが叶う事の裏側に潜む落とし穴に気付かないほど切羽詰まっているのだから、そんな人間に完済など無理だろう。生母のような闇金業はお金の無い相手や会社経営をしている人間の手形の決済を一時的に補うとか・・・もろもろの危ない橋渡し商売であり「怨みを買う商売」である。大きなリスクが懸念されるから当然高利になる、大体が十一(10日で1割の利息)、元金が返せない場合10日に一度利息だけ返しながらの返済だ。生母は稼いで貯まったお金を流用し、最終的な商いを闇金業に絞ったのだ、寝ていてもお金がお金をドンドン稼いでくれるのだからこんな楽なことは無い。お金が返せない場合は担保となっている家や土地、金目なモノを容赦なく取り立てる、針の先ほどでも同情心など無い!生母の表の顔は観音様のように美しく優しいが、裏の顔は血も涙もない般若の鬼女にも変じるのか。お金が返済出来ない経営者は倒産し、個人の借り手は家や土地を取られ、一体どれだけの人間が生母を恨んでいるのだろうか?ここでまた人から「恨まれる」という「種」を蒔いてしまっている。

元来人間は身勝手な生きものだ!お金が借りられて本来は恨む事が筋違いで感謝されるべき話が本末転倒となるのだから。生母の持つ独特な雰囲気は極道の組長の妻や大物代議士の妻にも十分演じられる素養がある。自業自得からではあるが、若い時の苦い経験や修羅場をくぐってきた生母は下手な男性より肝が据わり度胸もある人間に成長していた、当の昔にお嬢様は廃業だ。だから一人でも、堂々と危ない闇金業を営むことが出来たのだろう。