継母は一年生から6年間365日私の顔を見ると第一声必ず「勉強したのか?」を言う、「バカの一つ覚え」とはこの事だろう、私の返事は嘘でも「した」の一言。自分は文字さえ読み書きが出来ないのに、5段階制度のオール5に近い通知表を見せていてもこの人には意味が分からなかった。私がこの家に来てから、いや結婚した当初からなのだろう、この夫婦の会話は聞いた事が無いない、口を開くのは喧嘩の時だけ、継父は継母を殴りながら単語で怒鳴る「ばかヤロウ!このヤロウ!クタバリヤガレ!死に損ない!出ていけ!」必ず同じこの単語しか使わないが他の言葉を知らないのか?私への虐待はまるで示し合わせたかのように言葉と肉体の暴力をそれぞれが役割分担していた。この3年間は肉体の痛みより、「悲しみと孤独感」心が毎日重く肉体も心も鉄線でぐるぐる巻きに縛り付けられているようで身動き出来なかった。近い生家に逃げる気力も無く、何も考えられなくただ今日の一日が終わり眠る、そして無情の朝を迎えるだけの繰り返し。この家は、家全体を氷柱(つらら)で突き刺している、氷で出来ている悪魔の棲み家だ。しかしこの理不尽な暴力三昧を受けていても、不思議にもこの二人に「恨む、憎悪、復讐心」という黒い思いは全く湧かなかった、代わりに北極の冷たい氷の壁に囲まれた箱の中にポツンと一人で佇んでいる感覚だった。

後に継父が亡くなる一月前くらいの病室で、私の夫が「こういう時に一発殴っておけばいいよ」と半分冗談で呟いたが、まさか臨終を迎える人間にそんなこと・・・私には出来ない。