㉒誘拐

6歳になったばかりの私は、この時の恐怖の記憶を今でも鮮明に覚えているし絶対に生涯忘れられない。私は人さらいにさらわれると感じ怖くてたまらなく、すぐに部屋の真ん中にある柱にしがみつき大泣きしながら喚き散らした。小さな体で必死に両手両足をしっかりと柱に抱き付き絶対に離れまい!と生まれて初めての大泣きをしていた。どれくらいの時間が経ったのだろう、恐らく母が入れ知恵したのだ、兄が「自分も一緒に行くから」と言い、柱から優しくはがし、私の手をしっかりと握りしめ一緒に階段をゆっくりと降り、下で待っていたタクシーに私を先に乗せ、いきなり手を離した。