⑭生母

周囲の目と父にも気付かれそうになったのか、職人と別れ2人の子育てに専念しつつ、嫌いな父とも仮面夫婦を装いながら兄の誕生から5年の月日が流れ、私が産まれた。私は父によく似ている、だから子育てを放棄したのだろう。次女と長男はもう手がかからない、この頃から空いた時間は自分の姉の所に通っていた。妻の留守が多くても、気が小さくて優しい父は、事を荒立てないで何もかも許して自分一人の胸に収めていたに違いない。私は父がどんな人間なのか記憶も全くないが、私のことは唯一無二の存在、とても可愛がっていたと叔母達は語ってくれた。さて、この家での生活が嫌でたまらない母が会っていた仲の良い姉は、埠頭の近くで食堂をしていた。