人は恋をすると、恋について語りたがる。
恋愛経験が浅いやつほど、そういう傾向が強い。

恋愛感情には3つの種類がある。
(1)相手のことを好きになる。
(2)相手に恋をする。
(3)相手を愛する。

相手のことを「好き」になるとは、
相手のことに興味を持つことだ。
どんな人なのかな。
週末はどうやって過ごしているのかな。
どんな音楽が好きなのかな。どんな食べ物が好きなのかな。
好きな人はどういうタイプなのかな。
そうやって、相手のことばかり考えるようになる。
それが「好き」ってことだ。

相手に「恋をする」とは、
相手のことを「想っている状態」に酔いしれることだ。
でも俗に言う「恋に恋してる」という意味ではない。
相手のことを想い、相手のために尽くそうとする気持ち。
それはとても純粋で、とても温かくて、とても前向きで、とても優しい。
そんな人間は、幸せだし、周りの人間にも幸せを与える。
そういった「好き」って気持ちをパワーに変えられるのは
「恋」をしているからに他ならない。

では、相手を「愛する」とはどういうことなのか。
それは相手のことを受け入れること。
相手の弱いところ、過ち、罪、
そんなネガティブな部分もひっくるめて、相手を受け入れること。
相手を信じて疑わないこと。
相手に何かを求めることなく、
しかも自分自身が相手のために何かをしているということを自覚しないまま、
相手に何かを与えられること。
愛することは、一つになること。
「好きになる」こと、「恋する」ことが、一つになろうとすることを求める感情なら、
「愛する」ことは、一つであるという感情。

そう僕は考えている。



それでは
僕には誰か好きな人はいるのか・・・

Mさん。
彼女は恋というよりは、親しみに近しい感情だ。
少なくとも現状では、恋愛感情はない。

Sさん。
正直気にはなっている。
話しているとドキドキする。
でも彼女と恋愛するというイメージが湧かない。

眼鏡屋の店員さん。
・・・名前すら知らない。


でも一人だけ、「好き」だと言える人がいる。
それがRだ。

実は昨日、Rと飲みに行った。

カクテルコンペのあった日、僕は無性に淋しくて、誰かに会いたかった。
その時、顔が浮かんだのがRだった。

Rは何年か前にバーで出会った。
彼女はそのバーで働いていた。
当時は僕も他に好きな人がいたし、Rも恋人がいた(と聞いていた。)
だからRのこと、好きなタイプだけど、恋愛感情はなかった。

その後、Rはその店を辞め、僕もあまり飲みに行かなくなった。
事情があって、夜の街を遠ざけていたんだ。

1年ほど前、飲み会で再会した。
Rはとてもきれいになっていた。
というか、当時はほとんどRのこと、女性として見てなかったのかもしれないな。
Rはその時の恋人は別れたと言っていた。

なんだか少しドキドキした。

Rはちょっと雰囲気が、彼女に似ているんだ。
僕が人生で一番好きだったあの人に。
明るくて、元気で、良くも悪くも正直者で、お酒が好きで・・・
顔は全然違うけど、雰囲気が似ているんだ。

思えば、その時から僕はRのことを好きだったのかもしれない。

でも僕は彼女に積極的にアプローチできなかった。
トラウマの後遺症は恐ろしい。

好きって感情がずっと怖かった。

今年の正月、僕は変わろうとして、Rに年賀メールをした。
少しずつでも近づきたい。
そう思っていた。

彼女からの返事には、「結婚した」と書かれていた。

一瞬で、世界が色を失う。
まあ、あんな素敵な女性、他の男性が放っておく訳がない。
当然だ。

彼女からは飲みに誘えとメールが来るが、
別に結婚して興味がなくなったとかではないんだが、
旦那さんの感情とか考えると、なかなか誘いずらい。
で、何人かで飲もうと機会を設けるが、
それはそれでスケジュールが合わなかったりなかなか実現しない。

ま、それでも何度か彼女と食事をする機会があった。
てか彼女の会社の人と合コンとかしたんだけどね。

きれいな人いっぱいだけど、
それでもやっぱ僕はRのことしか考えられなかった。

で、俺はカクテルコンペのあった日。
彼女にメールした。

すぐには返事は来なかったけど、その結果、彼女と飲みに行くことになった。

詳しくは書かないけど、彼女は今悩んでいて、
最初みんなで飲んでワイワイ騒いで、
悩みを吹っ飛ばそうぜーって会にしようかなとか思ったんだけど、
よく考えたら、僕は彼女のこと、深くは知らないってことに気付いた。
だから彼女のこと、知りたくなった。
なので二人で会うことにした。

彼女は僕にいろいろ悩みを明かしてくれた。
人生経験の浅い僕には、ありきたりなことしか言えなかったけど、
彼女が僕に話してくれたことがうれしかった。

そして、彼女の力になりたいと思った。

実は、その時、僕の中には二つの僕がいた。
彼女に恋している僕。
彼女を好きな僕。

彼女に恋している僕は、
彼女の幸せのために、よいアドバイスをしようと考えを巡らせる。
そして、彼女の心に心地よい優しい言葉を必死で探して、
彼女の気持ちを癒そうとする。

一方、彼女を好きな僕は、ただ彼女のことを知りたがった。
彼女が何に悩んでいるのか、彼女は何を求めているのか。
彼女の本心は何を訴えているのか。
彼女の心に共感し、同調し、彼女の苦しみを分かち合いたい。
だから彼女の話をひたすら聞いた。

正直、僕の行為や言動が彼女のためになったのかは分からない。
「彼女のため」なんて結局は幻想にすぎない。
僕の独りよがりな感情だ。

すべては彼女自身が決めることで、彼女自身が感じることだ。

ただ僕は、彼女の言葉をそのまま受け止めるだけ。
僕にできるのは、話を聞くことだけだ。



ずっと明るくて元気で前向きだと思っていた女性が、
本当は印象と違った。
なんだかその弱さというか、僕の知らなかった彼女の姿が
とてもいとおしく感じた。

僕は彼女の全てを受け入れ、守りたいと思った。



なんかこれ以上書くと、
言葉にすると感情が虚飾になってしまいそうな気がしたので、
この辺でやめておく。



正直どうしていいかわからない。
ただ、この気持ちを相手に伝えることは僕のエゴでしかないんだろうな。
ましてや「彼女のために」とか言いながら、
何かしようとすることもエゴでしかないんだろうな。


ただ、言えることは
人を好きになるのって、ホンマに苦しくて、怖いわ。



                                               続く